サトリ 原案/トレヴェニアン「シブミ」 |
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作家 | ドン・ウィンズロウ |
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出版日 | 2011年04月 |
平均点 | 7.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 7点 | 小原庄助 | |
(2017/11/20 07:52登録) トレヴェニアンの傑作冒険スパイ小説「シブミ」の主人公の殺し屋ニコライ・ヘル。その若き日の冒険が、この作者によってよみがえった。 1951年、米軍の捕虜として東京で幽閉されていたニコライは、フランス人武器商人になりすまして北京に潜入し、ロシア人高官を暗殺する任務をCIAから与えられる。訓練係の美しいフランス人女性ソランジュと愛し合うようになり逃亡も考えるが、自由を勝ち取るために中国に渡る。しかし、そこでは各国の思惑が入り乱れ、危険な陰謀が待ち構えていた。 「シブミ」で描かれた東洋的な思想が本書でも引き継がれている。日本の将軍に教育を受けたニコライは武術にたけ、囲碁の思考方法を駆使して、相手の次の動きを読もうとする。 作者は西洋人がアジアを描く時の紋切り型を避けるために、文献を読み込んだようだが、その成果が見事に作品に結実している。「シブミ」の魅力をさらに際立たせ、疾走感あふれる冒険小説に仕立て上げた作者に脱帽だ。 |
No.2 | 8点 | Tetchy | |
(2013/01/05 00:24登録) トレヴェニアンの傑作『シブミ』を現代きってのストーリーテラー、ドン・ウィンズロウが受け継ぎ、続編を書く。このニュースを聞いた時に私の嬉しさと云ったらなかった。『シブミ』は私が現代ミステリを読み始めた頃に読んで驚きとスリルを味わった作品。そしてウィンズロウは2年前から読み出した作家でとにかく発表される作品すべてが痛快で外れなしの作家だ。 これはまさに私に読むべしと告げているようなものではないか! そんな期待の中、繙いた本書は一読して一気に『シブミ』の世界に舞い戻らされた。ここにはいつもの軽妙でポップなウィンズロウ節はなく、あるのはトレヴェニアンが築いたニコライ・ヘルの物語があるだけだ。日本の侘び寂びを筆頭に中国などの東洋文化に深く分け入った描写。『シブミ』を読んだ時に感じた「これは本当にアメリカ人が書いたのか?」という驚嘆の世界が次々に繰り広げられる。 さてそんな東洋文化を織り交ぜ、日本、中国、ヴェトナムへと舞台を展開し、スパイ小説のみならず冒険小説のスリル―ニコライがギベールとしてヴェトナムまでロケットランチャーを届けにジャングルや急流を渡るシーンのスリリングなこと!―も味わうことの出来る、まさにエンタテインメントのごった煮のような贅沢な作品だが、一つ納得のいかないのは本書の題名にもなっているサトリの内容だ。 いわゆる高僧が開く悟りの境地とはいささか異なるように思える。これからの道行きの全てが見えることを“サトリを得る”と書いてようだが、悟りとは日蓮や親鸞などの話からすれば、いわゆる“真理”を悟るということだと私は認識している。 従ってニコライが本書で得ているサトリとはいわゆる“見切り”であり、囲碁や将棋で何手先まで見通す“見極め”のことではないだろうか?その点を日本人が認識する“悟り”と誤認しているように思えたのが大きなマイナスとして私には働いた。 とはいえ、34年も前の作品を前日譚を描いて見事甦らせたウィンズロウの功績は大きい。 恐らく今後長らく『シブミ』は古典の名作として数ある巨匠の作品と共に並び続けるだろう。それは本書が一役買っているのは間違いない。そして本書もまたその横に共に並び、いつまでも誰もが手に取れ、ニコライ・ヘルの世界に浸れるようになるよう、望んで止まない。 |
No.1 | 7点 | kanamori | |
(2011/05/08 18:02登録) 日本のシブミの精神を会得した凄腕の暗殺者、ニコライ・ヘル26歳の最初の暗殺任務を描いた冒険活劇小説。 「二代目トレヴェニアンになる気はあるか」という出版エージェントからのEメールが本書執筆の契機のようですが、「仏陀の鏡への道」を書き、仏教徒でもあるウィンズロウにとっては、「シブミ」の前日譚であるこの「サトリ」を書くことは宿命のようなものでしょう。 物語は「シブミ」の設定を忠実に活かしトレヴェニアンにオマージュを捧げながらも、単なる模倣小説になっておらず、160以上の章割りでアップテンポで疾走する物語はウィンズロウ節が全開。 上巻の北京潜入と暗殺実行へのプロセス、下巻の雲南省からインドシナに至る筏での急流下りやサイゴンのナイトクラブでのポーカーゲームのシーンなど、懐かしの正統派冒険小説のあらゆる要素が詰め込まれています。 「シブミ」がある事情でニコライの実行シーンをあえて描写しなかったのとは対照的に、本書上巻終盤の殺戮シーンは読み応えがある。結末の処理にやや不満がありますが、続編への含みを持たせたと思えばまあ納得です。 ウィンズロウの諸作のなかで飛び抜けた傑作とはいえないけれど、話題性を考慮したら年末のベストテン入りは確実でしょう。ニール・ケアリーの決め台詞風にいえば、ベストテン上位ランク・インは「決まり金玉!」(笑)。 |