home

ミステリの祭典

login
深泥丘奇談・続

作家 綾辻行人
出版日2011年03月
平均点5.80点
書評数5人

No.5 5点 パメル
(2020/04/20 10:52登録)
10編の怪談をオムニバス形式で収める短編集。08年刊行「深泥丘奇談」同様に舞台は著者が生まれ育ち、現在も住む京都がモデルの架空の町。
各編それぞれ独立した物語で、主人公は作家を思わせる「長年の間、本格推理小説の創作を主な生業としてきた」人物。「紅叡山」の麓に妻と暮らし、時に散歩中に遭遇した怪奇現象を、時に過去のおぞましい記憶が呼び起こす恐怖を描く。
名も知れぬ神社の境内で誰もいないはずなのに「がらん」「がらん」と鈴の音が鳴る不気味な体験を描く「鈴」。外見はおおむね人間そっくりだが、異様な構造をしている怪しい生き物のバラバラ死体が発見される残酷な事件を描く「切断」...。
どれも作家の暮らす現象の世界をふと異形のものたちが入り込み、人間たちを翻弄する。日常に浸透してくる不穏な気配と怪談なのにどこか呑気な筆致が醸し出す滑稽味が同居する作品。

No.4 7点 メルカトル
(2019/12/01 22:17登録)
もうひとつの京都―「深泥丘」世界へ誘拐されてみませんか?妖しい眩暈とともに開く異界の扉。誰もいない神社の鈴が鳴り響き、甲殻類の怨念が臨界点に迫り、町では桜が狂い咲く。超音波検査で見つかる“心の闇”、霧の日に出現する謎の殺人鬼、夜に蠢く異形のモノたち…ありえざる「日常」が読者を包み戦慄させ、時には赦し解放する。ほら、もう帰れない。帰りたくない―!名手が贈る変幻自在の奇想怪談集。
『BOOK』データベースより。

不穏な空気が流れる古都京都。深泥丘に住む、度々眩暈を起こす「私」が様々な怪異に翻弄されるホラー連作短編集。
どこか懐かしい、幼き頃の微かな記憶を呼び起こすような作品集です。語り手は少々記憶が怪しく精神を病んでいる様子で、深泥丘病院の脳神経科に通っているため、物語に不安定さを増し、独特の如何わしい雰囲気を醸し出しています。和風ホラーなんですが、それ程恐ろしさは感じません。むしろ背中を得体の知れない何かに撫でられているような感覚を覚えます。平均的に面白く、なんとなく馬鹿馬鹿しい話もありますが、決して阿保らしいなどとは思えないんですよね、個人的には。

死体を五十回切断し、五十のパーツに切り分けるという矛盾した殺人事件など、ミステリの要素も少なからず含まれています。「私」が本格推理作家だというのもなかなか面白い設定ではないかと思います。なのに情緒不安定というね。
これは最早ホラーを超越した文学ですよ。流石名手綾辻、惜しみない拍手を送りたいですね。でも、***て何なんだー。

No.3 6点 公アキ
(2015/01/10 03:08登録)
いくつかの作品について、コメントします。

(以下、ネタばらし有り)
「鈴」
 小さな廃神社の鈴が、誰もいないはずの状況で鳴るのを聴いた「私」。誰かが鳴らしてすぐに隠れたのか、動物の仕業か、風の仕業か、トリックかーーこうした推理小説ライクな仮説が検証されますが、ラストは怪奇幻想的な決着を見せます。(作者があとがきで「ラストのひとくさりは含蓄があるなあ、とわれながら思ったりも」と書いていますが、私がホラー小説に明るくない読者だからか(?)、オチの含む「意味」はよくわかりませんでした。)

「狂い桜」
 誰かが席を立つなり、その間だけ、居なくなったその人の「死を悼む」異様な旧友達の様子に戸惑う「私」。しかしそれは邪悪な儀式ではなく、”閏年の狂い桜は良くない”という言い伝えからはじまったらしい、厄除けのおまじないだった。そして、停電の間に誰にも気付かれずに離席し「おまじない」をされる”前”に戻ってきてしまった朱雀氏は、その一週間後に落石事故で命を落としてしまうーーという、どなたかがレヴューに書かれていたように『世にも奇妙なものがたり』にありそうな話でした。

「ホはホラー映画のホ」
 エッセイ集『ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ』(綾辻行人・牧野修、幽ブックス)のおまけとして書き下ろされた、文庫本で十七ページほどの小品です。”そのための作品”ということもあって、五つの有名なホラー映画(『オーメン』『サスペリア』『エルム街の悪夢』『サンゲリア』『13日の金曜日』)のそれぞれの凄惨なワンシーンがネタにされています。
 夢の中で、警察官の「私」と警察医である石倉医師が、ホラー映画の見立てとしか思えない連続殺人事件を追う。それぞれの殺人現場には、映画内の「殺人者」の頭文字が残されるのだが、偶然二人が発見した「第五の殺人現場」とおぼしきところにはイニシャルはない。そう、実はーーというオチの効かせ方が実に本格推理作家の作品らしい小品です。
 「綾辻作品だから……」と、地の文の表現には気をつけてみて、「実にさまざまな偶然や巡り合わせが積み重なった結果」という表現の中身がトリックの鍵か?と疑ってみましたが、特にそういった含みがあるわけではなかったようです(笑)。

「深泥丘三地蔵」
 ある涼しい夏の日に散歩に出かけた「私」は、深泥丘病院の斜向いの公園内で、全身「赤」にまみれた異様な地蔵を発見する。どうやらこの地には「深泥丘三地蔵」というのがあるらしく、さらにその内の「一つめ」は行方不明になっていてーーという、これも文庫本で三〇ページ少々の小品です(この作品集の中ではボリュームはまあまあ、ある方か)。この作品の中で扱われるささやかな叙述トリックは、本作を作品集中で最も綾辻作品らしい一作たらしめていると、私は思います。しかしそんなプチ・叙述トリックがありながらも、物語としての収束は、幻想的な方向へと向かってなされます。私は前作『深泥丘奇談』を読んでいないからか、いくつかの作品で時折登場する「巨鳥」のくだりがどんな意味を持つのかはわかりませんでした。しかし読後は、不思議な味わいが広がっていきました。

「ソウ」
 「ホはホラー映画のホ」と同じく、警察官の「私」と警察医の石倉医師のコンビが、今度は別の奇怪な連続殺人事件にあたります。飛び降り自殺に失敗した女の内蔵を破裂させたり、家ごと破壊して中にいた男を壁に叩きつけて殺害する等、残忍かつ特別な装置や重機を用いなければ人間には実現不可能に思える犯行手口。一つ目の現場には「ソウ」という血文字が、二つ目の現場では男がジグソウパズルの一ピースを握りしめていてーーと、映画『ソウ』を想起させるような連続殺人事件が起こります。がーー。
これ正解は、ゾウ、ですよね?(笑) てっきり私は最初、恐竜(ダイナソー)かと思ったんですけど、それだと「欠け落ちた濁点」(角川文庫p179)の一文が合いませんもんね……。ゾウって、「重々しくも異様な足音を響かせて、それは猛然と坂道を駆け降りてくる。」(角川文庫p180)という描写が自分の中で上手くイメージできませんでした……”怖いゾウ”について、画像的、できれば映像的な知識がほしいところです(本作にそれを求めているわけではありませんが)。

「切断」
 深泥森神社の境内で、バラバラ殺害事件が発生、犯人は当該神社の神主・堂場正十。彼は手頃な石ころで相手の頭を滅多打ちにして殺害した後、”声”に従って五十回の切断を行い、五十個のパーツに分けた。その後、それらをゴミ捨て場で焼こうとしていたところを逮捕。しかし、「それら」のDNA鑑定次第では、堂場氏は釈放されると言うーー。
 本書のあとがきによると、「切断」は光文社カッパ・ノベルス創刊五十周年を記念して刊行された『Anniversary50』という競作集のための書き下ろし作品で、五十周年にちなんで「五十」をテーマにした作品を、というリクエストのもと、練り作られた作品らしいです。五十回の切断と五十個のパーツという状況に矛盾を生じさせない理屈として、頭と片足が繋がった******という存在をネタとする、というのは、なるほど(こういうものを書く時の)綾辻作品にふさわしい構想かもしれません(中編集『フリークス』にも異形のものたちが推理小説の登場人(?)物になる話がありました)。しかし紙面の枚数制限や詳細なリクエストなど諸般の事情があったのかはわかりませんが、せっかくの構想が、伏線未回収の不完全燃焼感で曇ってしまっているように、私には思えました。作品中では堂場氏の殺害理由には触れていても、五十回に切断した理由が予想よりずっと浅いもので(”電波系”という……)、しかも「それら」を焼いた理由が語られておらず、「DNA鑑定が出るまでは「私」が「それ」を死んだ人間だと誤認できる猶予を作り出す小説的都合」が露になっているのではないか、と思いました。それに、神屋刑事がわざわざ絵を描いて切断箇所の説明をした時に(「「ここを切って、ここをこう切って……」というふうに「切断図」を図中に描き込みながら解説してくれたのだった」(角川文庫p208))、頭と片足の切断について神屋刑事が可能性として触れないのは不自然ではないのか、と思いました。

「ラジオ塔」
 「夕焼け」のイメージが強い、幻想的な作品。くだんの「巨鳥」が登場し、それがついには象形文字に……前作を読めば意味がわかるのか、もしそうならどんな意味合いが込められているのか……。文や文章から喚起されるイメージは美しく、恐ろしく、幻想的なものでしたが、それ以上のことを「読む」ことは、私にはできませんでした。

No.2 6点 simo10
(2013/09/21 23:18登録)
(個人的に)待望の癒し系怪奇小説、深泥丘奇談の続編の文庫化です。
前作と同様の流れを汲みつつも、表世界と裏世界の関連を暗示する作品もあります(正直、解説読むまで意味が解らなかったが)。
「ホはホラー映画のホ」なんかは設定からして笑える。
ミステリではないが前作に引き続き、特別に6点あげちゃいます。

No.1 5点 kanamori
(2011/04/05 18:29登録)
京都の架空の街を舞台背景に、ミステリ作家の「私」が体現する幻想怪奇譚、シリーズ連作短編集の2作目。
深泥丘病院の医師や看護師が絡む前作同様のまったりした不思議な物語もありますが、今回は、本格ミステリ的なガシェット(ダイイング・メッセージ、見立て殺人、ミッシング・リンクなど)を使ったナンセンス小説の趣が強い作品が目立った。
なかでも、バカミスとホラーのハイブリッドのような「ソウ」が、脱力系怪奇小説としてイチオシです。

5レコード表示中です 書評