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ミステリの祭典

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魔都

作家 久生十蘭
出版日1948年01月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 おっさん
(2011/01/02 19:41登録)
昭和12年(1937)の「新青年」10月号から、まる一年にわたって同誌に連載された、鬼才の出世作です。十蘭は、戦後、とぎすまされた短編の完成度で名をはせますが、個人的にはこの頃の、自由奔放な書きぶりのほうが好きですね。

昭和9年(’34)大晦日の夜、三流新聞の記者・古市加十が銀座の酒場で意気投合した奇妙な男は、じつは訪日中の安南(現・ベトナム中部)国王だった。酩酊した加十は、王様の愛人が住むアパートに招かれるが、やがて愛人はベランダから墜死し、王様も姿をくらます。
事件が国際問題化することを危惧し、その隠蔽をはかろうとする(急場しのぎに加十を王様の替え玉にしたてあげる)上層部に対し、とことん真相を追究する、捜査一課の真名古警視だったが・・・
発端の殺人と失踪に、公園の噴水の鶴が唄いだすというマカフシギな謎が交錯し、じょじょに浮かび上がってくる事件の構図。王様と会見すべくフランス大使がやって来る、1月2日の早朝をタイムリミットに(元日を含む30時間ほどのお話)、帝都・東京の水面下で繰り広げられる、一代犯罪絵巻!

いまとなってはパラレル・ワールドのような「帝都」ですが、震災から戦争突入までのあだ花といっていい、爛熟した都市のイメージ(あたかも、ホームズのヴィクトリア朝のロンドン、ルパンのベル・エポックのパリのよう)を、講談調のリズミカルな文体で、著者は鮮やかに描き出していきます。
そして、謎解きの興味は終盤、失速しますが、カオスのようなアンダーワールドの物語を締めくくる、予断を許さないクライマックスが用意されています。
レオ・ペルッツの『最後の審判の巨匠』もそうでしたが、フォーミュラ・ノベルとしてのミステリを読みなれた読者に稀有な読書体験をプレゼントしてくれる、破格のエンタテインメントぶりを買います。

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