グリュン家の犯罪 デュラック警視シリーズ |
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作家 | ジャックマール&セネカル |
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出版日 | 1980年06月 |
平均点 | 6.67点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | tider-tiger | |
(2023/06/22 12:04登録) ~小ベニスと呼ばれるプチット・フランス地区で川に女性の遺体が浮かんだ。騒ぎになるも、発見者たちが目を離したすきに遺体はどこかへ消え失せていた。どうも遺体はこの地の有力者グリュンの家の者だったらしい。デュラック警視はグリュン家をたずねる。すると、川に浮いていたはずの遺体が家の中で発見されてしまった。 1976年フランス。パリ警視庁賞受賞作。導入では派手な展開を予想させなくもないが、内容は地味な捜査を主体とした作品。人間関係を読み解いていく、だけでもない本格ミステリのなかなかの良作。 50年近く前の作品ではあるが、それにしても(序盤は)書き方というか言い回しが古めかしい。文章だけにとどまらず、さまざまな点からも古典ミステリが作者の血肉となっていることを強く感じさせる。さほどケレン味はなく、中盤ややダレ気味になるところもあるが、会話主体の読みやすい文章、どこか謎めいたところのあるグリュン家の人々、丹念に伏線を張って、最後に二転三転したうえで真相が明らかになっていくカタルシスなどなど美点も多く、フランスミステリが苦手な方にもお薦めしやすい作品。 同時に書評した『罪深き村の犯罪』ほどの思い入れはない作品だが、高評価する方がいることにはなんの異論もない。バスケが好きかサッカーが好きかの違いのようなもの。 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2019/05/29 14:29登録) (ネタバレなし) フランスは「小ベニス」の異名を取るプチット・フランス地区。その週の金曜の朝、猫の餌を集めていた老婦人ディクボーシュ夫人の悲鳴が上がる。市街を流れる河川・イル川に若い女性の死体が浮かんでいたのだ。近所の住人十数人がその死体の存在を認め、一同は警察に通報したあと、近所の居酒屋で土地の人々と懇意の警官、30代前半のルシアン・デュラック警視の到着を待つ。だが警視が着いた時には死体は水面から消えていた! 目撃者たちの証言から、死体は近所の名士である稀覯本の装丁職人ヴォタン・グリュンの息子ドニの恋人で、現在はグリュン家の面々とともにその邸宅に暮らしている娘ディアナ・パスキエではないか? と推察される。早速、知己の一家であるグリュン家を訪ねるデュラックだが、その邸内の一室で、川にあったはずの娘の死体が発見される! 総ページ数170頁前後、目次を見るとその週の金曜から翌週の木曜にかけての短期間の物語、さらに本文は会話も多く、読みやすいことこの上ない。デュラックとその部下ホルツ警部補の捜査は、グリュン家の家族周辺、さらにはヴォタンをガキ大将的に敬う(ように無言の内に強いられる)近所の人々の集い「サークル」の参加者各人へと広がっていくが、この辺もそれぞれのキャラ立ちがしっかりしていて退屈しない。さすがは劇作家出身の作者たちである。 終盤の三段階のどんでん返しはなかなかの迫力で、事件の真相には強烈な作中のリアリティがあり、さらにラストにはしみじみとした小説的な余韻を実感させられる。ミステリとしての細部を埋めていく随所のセンスの良さも印象的。手がかりがちょっと後出しっぽい部分がないでもない気がするが、まあ許容範囲であろう。 推理に行き詰まった末に、ホルツ警部補に向かってある事件関係者の名をあげて「一番怪しくないからあいつが犯人だ」と暴言を吐いてしまうデュラックのキャラクターも笑える。しかしクライマックスの彼は堂々たる名探偵ぶり。シリーズ未訳の作品があるのなら、もっと読みたいぞ。 |
No.1 | 7点 | nukkam | |
(2010/10/26 17:50登録) (ネタバレなしです) フランスのイヴ・ジャックマール(1944-1980)とジャン=ミシェル・セネカル(1944年生まれ)のコンビは劇作家としては散々辛酸を舐めましたが、1976年発表の本書が(1977年度の)パリ警視庁賞を獲得してミステリー作家としてはこれ以上ないほど幸先いいスタートを切りました。フランス作家とは思えないほどプロットのしっかりした本格派推理小説です。ハヤカワポケットブック版で200ページに満たない薄さながら容疑者数は15人を超え、しかも中盤まで続くアリバイ調査がやや単調に感じられますが最終章でのどんでん返しの連続はそれまでの冗長さを補って余るほどのサスペンスです。フランス本格派推理小説界の巨星となる可能性を十全に見せてくれたのですがコンビの片割れ(ジャックマール)が本書発表のわずか4年後に急死してしまったのは本当に残念です。 |