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ミステリの祭典

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灰色の虹

作家 貫井徳郎
出版日2010年10月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 4点 パメル
(2020/11/01 10:10登録)
身に覚えのない殺人の罪に着せられ服役した主人公の江木は、刑期を終えた後、復讐を誓う。やがて、裁判の関係者たちが次々と変死した。警察は江木に疑いを向けるが、警戒の隙をつくように犯行は続く...。
この作品は冤罪というテーマを真正面から扱ったミステリ。現実には、強引な捜査をした警察官や検事、誤った判決を下した裁判官などは、形ばかりか謝罪することはあっても自分の人生で償いをすることはない。その意味で、本書の展開は殺されて当然といったカタルシスを感じるかもしれない。
しかし、復讐のための殺人なら許されるのかという問いが、結末に近づくにつれて重くのしかかってくるため、読み心地は痛快さからは程遠い。人間の罪の罰について真摯な考察を重ねてきた作者ならではの力作といえるでしょう。
現実の司法の闇は一般人の想像を超えて深い。その前では本書における司法の歪みの描写すら、まだ甘いように感じてしまう。また、先が読めてしまう展開に、最後の真相も予想通りでミステリとしては今ひとつ。そして、このストーリーにしては冗長に感じる。

No.2 6点 パンやん
(2016/04/07 11:10登録)
時制を変えて、ぐんぐん力強く読ませて盛り上げていく筆力は、諸作品同様素晴らしいものの、ミステリーとしての快感は薄い。冤罪がつくられていく過程、刑事の描写がとても丁寧なので、自然に感情が揺さぶられるのに、肝心のトリックが惜しい。だって予想通りなんだもん。

No.1 7点 シーマスター
(2010/10/26 23:56登録)
理不尽、陰惨、苦痛、絶望、怨念、復讐、悲愴・・・
・・・といった暗鬱な内容にまみれた物語でありながら、いや、それ故にページを捲る手が止まらないという貫井節炸裂の生々しい冤罪小説。(こういう系が苦手な人は決して読んではならない。こんなにも痛ましくやりきれない話はない)

先日メディアで流された警察官によるヤクザまがいの取り調べの録音からも分かるように、作中で描かれた今尚横行する暴力的な被疑者落とし、そしてそれに続く司法システムの定式性には憤怒以上に恐怖を感じるばかりで、この「冤罪の構図」という蟻地獄にはまったら逃れるすべはないことを前半では実感させられる。

少々強引で御都合な展開は相変わらずだが、そうした引っかかりを吹き飛ばす絶大なリーダビリティも御健在。(ていうか相性の問題なんだろうけどね)

ただし後半に入ると若干息切れの感も否めず「裁判官の章」辺りでは冗長さに加えて喜劇的な空気すら感じられる。

唯一のミステリーらしいトリック・・・これは本サイトでも非常に評価が高い某短編集の中の一作のモロパクリだが(それはそれでいいんだけど)これはちょっと(少なくとも全部は)ムリだよね。痛ましさを増大するばかりだよね。

読後感としては・・・・全てが白日の下に晒され、このようなことが今後現実で起こらぬことを願うばかり。

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