メグレ保安官になる メグレ警視 |
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作家 | ジョルジュ・シムノン |
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出版日 | 1979年07月 |
平均点 | 5.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 5点 | クリスティ再読 | |
(2022/10/02 10:38登録) メグレだって、コカ・コーラをラッパ飲みするのである(苦笑) アリゾナ州ツーソンというメキシコ国境の米軍基地の街が舞台。研修旅行、は名目で事実上慰安旅行みたいなアメリカの旅。いたるところでメグレは歓待され、名誉待遇で「八つか九つの郡保安官」のバッジを頂いている。けどこの街でふと時間つぶしに傍聴に入った検死法廷の事件に、メグレは興味を持った.... メグレ物の中でも「異色作」といえばこれほど「異色作」もないものである。メグレにはアウェイの事件も多いけど、これほど捜査権限もなく部外者な事件もない。メグレもほぼ検死裁判を傍聴するだけで、積極的な介入はなにもしないくらい。フランスでの捜査のやり方とアメリカの違いについて、感想を言う程度だが、それでも犯人を当ててみせて面目は保つ。だから、シムノンの見たアメリカのホンネみたいなものが、この作品の興味。 メキシコ国境の街、というわけで荒々しい西部の辺境..と思うと、そういうわけでもなくて、アメリカン・ウェイ・オブ・ライフに対するシムノンの「清潔すぎる」という言葉で象徴される違和感がすべて。二日酔いだって「特殊な蒼色の瓶」の薬で撃退! そして事件の背後にある男女関係も、なるべく表に出さないように配慮する清教徒主義などなど、メグレもいろいろ戸惑うことばかり。 「異色作」ついでで言えば、事件に面白味がないし、メグレも活躍しない。まあだから、「こんなのもあるね~」くらいの作品。 (ちなみに「メグレ、ニューヨークへ行く」はメグレ退職後の事件なので、時系列では本作が前(執筆は後)。「ニューヨークへ行く」は明言はしていないけど、初のアメリカ行きみたい。本作で散々出るジュークボックスに驚いている。戦後のメグレはサザエさん時空だからね) |
No.2 | 5点 | 雪 | |
(2018/11/26 04:49登録) メグレ警視はアリゾナ州ツーソンに滞在していた。研修旅行のカリキュラムとして、アメリカの法制度や捜査手順を視察するのだ。当地の裁判所ではある事件の審問が行われており、彼は名誉副保安官の資格でそれに立ち会うこととなった。 砂漠を走る線路脇に放置されていた女性の轢死体と、彼女と連れ立って歩いていた五人の兵士を巡る事件。事件関係者たちの矛盾する証言。これは事故なのか、それとも殺人なのか?メグレは慣れぬ異国の制度に戸惑いながら、真実を見定めようとする。 メグレ警視シリーズ第59作。1949年発表。原題は Maigret chez le coroner (検死審問法廷のメグレ)。日本語邦題はイロモノですが、内容はマトモです。 メグレものとしては非常に珍しく、現場図面が二度ほど挿入されます。が、推理的要素はほとんどなし。ツーソンで現実に起こった事件を参考にしたのでしょうか。事件の解明よりも、アメリカの法廷の様子や社会風俗の描写に筆が注がれています。このあたり実際に一時ツーソン在住だったシムノンの経験が生きています。 第二次大戦後の世界のリーダーとして台頭したアメリカの実情を、フランスの読者に示す意図で書かれた作品でしょうか。そうは言ってもメグレもやられっぱなしではなく、審問が進むにつれて焦点を絞り、現地の副保安官にメモを手渡し、判決前に犯人の名前を当ててみせます。 メグレが犯人を当てた事で副保安官は僅かに胸襟を開き、陪審制度といっても我々が事実の出し方をコントロールしているので、フランスとやってる事はそう変わりませんよみたいな事を語ります。おそらくこれはシムノン自身の見解でもあるのでしょう。地味めのノンフィクションみたいな作品です。 |
No.1 | 6点 | 空 | |
(2010/09/27 23:06登録) 1940年台後半は、シムノンがまたメグレものに取り組み始めた(一般的には以降がメグレ第3期とされています)時期ですが、この第3期初期は、作者が様々な変化をメグレものに取り込もうとした時期と言えます。ニューヨークへ行ったり、南仏で休暇中だったり、若い頃の事件だったり。本作では思い切って西部劇の世界にメグレを放り込んでいます。舞台はアリゾナ州の砂漠の中の町。 タイトルにも関わらず、メグレが保安官として活躍するわけではありません。司法警察警視として名誉副保安官みたいなバッジはもらっていますが。若い女が汽車に轢かれた事件の検死審問をメグレが傍聴する話で、ほとんど全編法廷ものといった展開です。 メグレが慣れない検死審問のやり方に戸惑いながらも自分なりに出した結論が、事件担当副保安官の解決と一致していたということですが、結末の意外性はメグレものの中でも特に希薄です。しかしアメリカ南西部の空気が非常に感じられるのが魅力になっています。 |