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ミステリの祭典

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暗闇にひと突き
マット・スカダー

作家 ローレンス・ブロック
出版日1985年07月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 6点 E-BANKER
(2018/07/28 08:53登録)
アル中探偵マッド・スカダーシリーズの四作目。
シリーズ最高傑作と言われる次作「八百万の死にざま」への橋渡しとなる作品。
原題“A Stab in the Dark”。1981年の発表。

~若い女性ばかりを狙った九年前の連続刺殺事件はNYを震撼させた。犠牲者はみな、アイスピックで両眼をひと突きされたいたのだ。ブルックリンで殺されたバーバラも、当時その犠牲者のひとりと考えられていた。が、数週間前に偶然逮捕された犯人は、バーバラ殺しだけを頑強に否定し、アリバイも立証されたという。父親から真犯人探しを依頼されたアル中の探偵スカダーが、困難な調査の結果に暴き出した驚くべき真相とは?~

普段、“シリーズ作品は順番に読む方がベター”と信じている私なのだが、なぜかバラバラに読んでしまっている本シリーズ。
最近は「お酒をやめたスカダー」の方に接する機会が多かっただけに、本作は逆に違和感を覚えた。
とにかく“呑む”のだ。
ビールは食前酒感覚、バーボン、スコッチ、果てはブランデーまで・・・(しかも基本ストレート)
本作ではシリーズ初期でのスカダーの相手役となるジャニスも登場。アル中に苦しむ彼女を前にして、自分自身の酒、そしてアル中に強い不安感を抱く彼の姿が印象的。
(しかし、ラストではまたしても酒に溺れることになる・・・)
『八百万・・・』以降、ストイックなほど禁酒生活を送る彼の姿を見ているだけに、何となく酒に溺れている彼が愛おしく感じてしまう。

さて、本筋はというと・・・
猟奇的な連続殺人という派手な設定の割に特段強調することはない。
いつものように、事件関係者たちに地道に聞き込みを続けるが、なかなか光明が見えてこない展開。
しかし、終盤、突然説明のつかない「齟齬」を発見してからは一直線。意外な真犯人が浮かび上がってくる。
今回はNYの地理が事件解決のヒントになるので、土地勘のない一般の日本人にはちょっと分かりにくいかも。
(動機は結構分かる気もするけど、う~ん、やっぱり分からん!)

シリーズ未読作はあと数作品を残すのみとなった。
できる限り、大切に、芳醇なワインを味わうように読んでいきたい。

No.2 7点 Tetchy
(2014/04/19 20:57登録)
シリーズ4作目の本書ではスカダーは彼が警官時代に担当した連続殺人事件の被害者の真犯人を捜そうとする。それは彼の過去との対峙でもあった。
アイスピックを使って女性ばかりを襲う連続殺人魔。8人もの犠牲者が出た後、ぱったりと事件は沈静化する。それは当の犯人が長期強制入院させられていたからだった。そして9年後の今、その犯人が捕まり、解った事実が8人の犠牲者のうち、その1人バーバラ・エッティンガーは自分が殺したのではないということ。その父親は彼女を殺した真犯人捜しを当時警官で事件を担当していたマットに依頼するというのが今回の話だ。

しかし連続殺人犯をテーマに扱いながら、ブロックはなんとも地味に物語を展開させるのだろう。通常ならば連続殺人犯による犯行がリアルタイムで起きている状況下で物語を紡ぐことだろう。その方がサスペンスも盛り上がるし、また何より物語に起伏も出る。
しかし敢えてブロックはそれをある女性の過去の殺人の真相を探るモチーフとして扱うだけに留めるのだ。しかも連続殺人事件は9年も前の事件にして。従って物語は数少ない当時を知る人を探り当てるところから始まり、また当時を知る者も既に記憶が曖昧になって実に心許ない。つまり読者は過去を探るスカダーと共に何とも手ごたえの感じない捜査の一部始終を体験するのだ。
なにゆえこのような展開をブロックは選んだのか。やはりそれがスカダーの向き合う仕事に相応しいからだということだろう。連続殺人犯と云う敵と戦うマットはどうしても武闘派にならざるを得ないが、マットにはそんなポジティブな行為は似合わず、過去の疵を抱いて時々自分に仕事を頼む人から少しばかりの報酬を貰ってその日暮らしの生活をする、人生の落伍者には過去を辿る行為こそがお似合いなのだろう。

前作でも抱いたのはなぜスカダーは敢えて寝た子を起こすような行為をするのかということだ。しかしその疑問について私はある一つの答えを得たような気がした。それは自身が抱える過去の闇を忘れずに酒に溺れ、半ば死んでいるような日々を送っているからこそ、過去を忘れ去ろうとする人々が許せないのだろう。
しかし過去を抱えて今を生きるマットの生き方は決して誉められたものではない。『一ドル銀貨の遺言』では過去の過ちを消し去ろうと努力し、それぞれが成功を収めている人々がいる。過去を抱え、定職にすらつこうとしない男と過去を消し、いまを生きようとする人々。この二律背反な構図は決してスカダーが真っ当な人間ではないことを指す。
しかしこれこそが正義を貫くことの代償なのだろう。正しいことをすることは何かを捨てる事なのだとブロックはスカダーで表しているのかもしれない。
このマット・スカダーの物語は上昇志向の人々にはそぐわないものだろう。誰でも失敗はするし、それを糧にして今をもっと頑張ろうと生きる。マットの生き様はそんな前向きの生き方とは真逆なものだ。

原題は“A Stab In The Dark”。Stabという単語には「突き刺すこと」という意味以外に「人の心を傷つける事」という意味も持つ。暗闇にひと突き。暗闇は9年前の事件のことを指す。すなわち忘れ去られようとする過去でもある。その暗闇を突き、人の心を傷つけたのはマットその人であった。すなわちこの題名は過去を掘り起こすマットのことを指しているのだ。読後に立ち上るもう1つの意味。実に上手い題名だ。

No.1 7点 kanamori
(2010/10/24 16:52登録)
無免許のアル中探偵マット・スカダーシリーズの第4作。
アイスピックで殺害された娘の真犯人探しを父親から依頼されることで物語が動き始めます。しかし、その本筋の謎解きはオマケのように思えてしまうほど、刑事を辞職することとなった過去の事件を悔い、飲酒に逃避する中年探偵スカダーの心情描写に重点が置かれ、陰影のあるマンハッタンの情景とともに印象に残る作品。
シリーズ初期の重要な役割を担う女性彫刻家ジャニスや、AA(アルコール中毒者の自主治療協会)との出会いなど、代表傑作といわれる次作「八百万の死にざま」のための前奏曲となっているように感じました。
田口俊樹氏の翻訳は素晴らしいのですが、このタイトルは軽すぎて泥棒バーニィシリーズを思わせます。

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