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ミステリの祭典

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殺し屋
殺し屋ケラー

作家 ローレンス・ブロック
出版日1998年09月
平均点6.25点
書評数4人

No.4 7点 Tetchy
(2015/08/09 23:28登録)
黒い表紙に都会の片隅を想起させる湿った路地の写真と銃痕で穴の開いた窓の意匠に「殺し屋」の文字。装丁から想起されるのは非情で孤独な男の世界なのだが、しかしこの殺し屋に纏わる話は実に奇妙なのだ。どのシリーズにもないどこか不条理感を伴っている。

しかしそれもシリーズを読み進めるうちに読者にケラーの素性が解ってくるに至り、何を考えているのか解らなかったこの男が実に人間臭い人物になってくる。
つまり読み進むうちにケラーの変化を同時に読者は感じるようになり、次の展開が非常に気になる作りになっている。

「ケラーの責任」はMWA賞受賞作に相応しい傑作だ。本作のケラーは実に深みがあり、孤高の殺し屋としての流儀を重んじる人物になっている。この心理こそが殺し屋の殺し屋たる仁義とも云えよう。個人的ベストに迷わず挙げよう。

男臭さの宿る装丁で手に取ることを敢えて躊躇っているならばそれは実に勿体ない話だ。この物語世界の豊かさは寧ろ男性よりも女性に手に取ってほしい色合いを持っている。ケラーの、どことなく思弁性を感じさせる彼独特の人生哲学と、仕事斡旋人のドットとの掛け合いの妙を存分に堪能してほしい。殺しを扱いながらこんなにも明るい物語に出遭えるのだから。この二律背反を見事に調和させたブロックの職人芸、ぜひとも堪能していただきたい。

No.3 6点 E-BANKER
(2013/01/13 01:36登録)
「殺し屋ケラー」シリーズの第一弾がコレ。
体裁としては連作短編と呼ぶべきだが、各編が長編の章立てのような味わいにもなっている。
帯の「伊坂幸太郎も夢中になって読んだ」という文句に惹かれて手に取った次第・・・(このミスで対談もしてたしね)。

①「名前はソルジャー」=ターゲットに近づくための方便が「犬」。そしてその名前がなぜか「ソルジャー」・・・。そして、ミッションは静かにそして確実に完了する。
②「ケラー、馬に乗る」=本編の舞台は西部の乾燥地帯の田舎町。「馬に乗る」とは西部劇を意識してのタイトルだろうが、ラストが作者らしく気が効いてる。
③「ケラーの治療法」=なぜか精神科に通院することになるケラー。そして、本編には重要な登場人物(じゃなかった、登場犬)ネルスンが初見参。これもなかなか気が効いてる一編。
④「犬の散歩と鉢植えの世話、引き受けます」=妙なタイトルだが、③の結果自室で飼うことになったネルスンを愛おしむばかりに、犬の散歩役で雇うことになった若い女性がアンドリア・・・。そして、この女性の存在感も徐々に増すことになる。
⑤「ケラーのカルマ」=ネルスンとアンドリアのせいで、冷静でドライな殺し屋だったはずのケラーの心境に徐々に変化が訪れる? しかも、ターゲットを間違うという致命的な間違いが起こってしまう。そして「カルマ」とは?
⑥「ケラー、光輝く鎧を着る」=ケラーのボスに異変!? 不安を抱く連絡役のトッドが自ら受注した仕事にケラーが乗り出すことに。しかしながら、そこには罠が・・・。最後は決めるのが殺し屋の矜持。
⑦「ケラーの選択」=⑥で明らかになったボスの異変。そのために引き起こされた厄介な事態。殺しの依頼を受けたターゲットが、次の依頼者になってしまう・・・。ケラーはどちらの依頼を受けるのか、というのが「選択」の意味。
⑧「ケラーの責任」=これも好編。本編の舞台・テキサス州のあるパーティー会場のプールで一人の少年を救い出すケラー。期せずして「命の恩人」となってしまったケラーを歓待する少年の祖父。この祖父との付き合いが深まるほどに・・・。ラストは余韻を引く。
⑨「ケラーの最後の逃げ場」=何と政府の機密機関より仕事の依頼を受けることになったケラー。ただ、そこにはやはり「裏」があった。裏の事実を知ったケラーの取った行動とは? やっぱりそうなるよな。
⑩「ケラーの引退」=殺し屋を引退したいケラーのたどり着いた趣味は、何と「切手蒐集」だった。しかも、切手蒐集に嵌ってしまうことに・・・。そして、ボスが逝ってしまった後、ケラーの下した決断は・・・

以上10編。
さすがに名手といったところで、各編とも小気味良くまとまった作品ばかりが並んでる。
その分、ちょっとインパクトには欠けるかな、という気がしないでもないが、まずは十分楽しめる作品ではないか。
何といっても、ケラーの造形が秀逸。この辺りは名人芸。
(ベストは③、⑤というところか。後もまずまず。)

No.2 6点 mini
(2011/09/21 09:56登録)
昨日20日に二見書房から殺し屋ケラーシリーズの多分最終作なのか「殺し屋 最後の仕事」が刊行された

最初期の快盗タナーは別にすると、マット・スカダー、泥棒バーニイと並ぶローレンス・ブロック3大キャラのもう1人が殺し屋ケラーだろう、この機会に初めて読んでみた
このシリーズ第1作「殺し屋」は各短編を章に見立てた長編の体裁を採っているが、各短編は個別に雑誌に掲載されたものの集合体で、実質は短篇集である
最後の1篇は書き下ろしで、単行本化するにあたって全体の纏めをするのが目的で追加として書き下ろしたのだろう
まぁ快盗タナーなんて長編でもエピソードの羅列みたいで殆ど連作短篇集同様だったしな、ブロックの資質は短篇向きなのかな
主人公は殺し屋だが、殺しの場面などカットされた話も有ったり、ハウダニット的な興味は希薄
殺し屋の日常・心情を描いた私小説かエッセイって趣で、思想性が有る様で無く、無い様で有る、どうって事の無い話なのに面白く読まされてしまういつものブロック節だ
特にMWA賞受賞の2篇は優れている、「ケラーの責任」はオチがやや見え透いているので「ケラーの治療法」の方が好みかな
強いて難を言えば、元締めの秘書ドットとの会話は面白いのだが、kanamoriさんの御指摘通り他の登場人物との会話にブロックらしい洒落っ気が乏しいのが残念

ところで二見文庫の題名はなんじゃこりゃ
ヒット・マン → 殺し屋
ヒット・パレード → 殺しのパレード
ヒット・エンド・ラン → 殺し屋 最後の仕事
どう考えても統一感から見ても原題そのままカタカナ書きすべきだろ、これじゃ原題の洒落っ気が台無しじゃねえかよ、商標権とか何か問題でも有ったのか?
訳者解説によると原著も当初は『ケラーズ・グレイテスト・ヒット』の予定だったらしい、その方が良かったのに
私が勝手に選定する”邦訳題名の下手な文庫ワースト3”はこれじゃ
1. 扶桑社文庫
2. 角川文庫
3. 二見文庫

No.1 6点 kanamori
(2010/09/26 18:01登録)
殺し屋ケラーを主人公にした連作短編集の第1弾。
泥棒バーニイやマット・スカダーのシリーズほど、洒落た会話が散りばめられてはいません。主人公である殺し屋の日常や趣味、仕事内容までも淡々と描かれている。
過度にハードボイルドに奔るでもなく、ウエットでもないケラーの造形は、どこにでもいる会社員と変わらないように見えるが、その人物がヒットマンであることで不思議なリアリティを醸し出しているように思えた。
流れるような文章はやはり職人芸の域で、各編とも読み心地がよかった。

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