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ミステリの祭典

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影丸極道帖

作家 角田喜久雄
出版日1965年01月
平均点7.33点
書評数3人

No.3 7点 クリスティ再読
(2022/06/19 14:34登録)
将軍家斉の大御所政治も終わり、天保の改革へと幕末に向けて時代が動く世相を背景に、「影の影丸」を名乗る凶盗が逮捕された...しかし、影丸は取り調べの隙をついて逃走してしまう。影丸を追う引退与力の白亭たちは、その養女お小夜の誘拐事件に端を発した、家斉の愛妾お美代の方の一党をめぐる陰謀と、影丸による復讐らしき連続殺人に関わり合うことになっていく。お小夜と影丸との因縁は何なのか? 異常な出世を遂げた酒田左門の秘密とは? そして明らかになる影丸の正体...

評者世代だと、影丸、と言ったら「忍者武芸帳」なんだけども、この影丸もある種の伝説的な怪盗になるわけで、忍者の影丸には及ばなくてもダークヒーローの色合いがある。いやこの小説の仕掛には、そういう「ダークヒーロー」を相対化するような狙いもあるわけで、そこらへんミステリの視点がある作家による時代伝奇小説であることは、間違いない。

まあ、話も長いし、プロットは紆余曲折を極めていて、影丸によるお小夜救出劇などの冒険的な部分も読みどころになるので、本題の「影丸の復讐」に入ってくるまでに経過もある。だから、影丸逃亡の謎などのトリッキーな部分は、種明かしの段なると時間がたち過ぎていて....そういうわけで、いろいろとミステリ的な趣向もあるんだけども、「本格テイストが強い」とか言上げするのは筋違いな気もするんだ。

いやさ、やはり時代伝奇小説というジャンル自体、昭和初期にいろいろと紹介された海外のミステリ・冒険小説の影響を受けて成立した、というのを否定できるわけがないわけで、本作のようなどんでん返しは角田の作品でもいろいろあるわけだしね。まあそれでも影丸の正体とか、けっこう手が込んでいるし、白亭の名探偵っぷりはかっこいい(サバけすぎてるけどね)。

時代伝奇小説も含めた、昭和初期に成立した日本大衆小説の枠組みの中で、実はミステリというジャンルもしっかりと見直すべきなんだと、評者は思っているのだよ。(ちなみに家斉の愛妾のお美代の方が亡くなったのは、明治に入ってからなのが面白い。意外なくらいに近い時代なのである)

No.2 7点 蟷螂の斧
(2018/10/19 23:26登録)
長い!上下2段430頁(講談社版)、さらに文字が小さい(苦笑)。まあ、時間がかかったけれども楽しめました。時代ミステリーですが、本格要素(HOW、WHY、WHO)は満載。どんでん返しも用意されていました。

No.1 8点 kanamori
(2010/08/14 15:38登録)
作者の初期の伝奇時代小説はミステリ趣向が施されているものが多いですが、本書は逆に、伝奇時代小説を装った本格ミステリといってもいいほどトリックが秀でています。
物語は、元与力の白亭と町方同心・志賀三平が、極悪怪盗・影丸と白亭の娘の誘拐事件を追う構成で、中盤はフレンチ警部ものを彷彿させる捜査小説の趣で、終盤には探偵役・白亭の推理が延々と語られた上、圧巻のどんでん返しを設定しています。
時代小説を読みなれてないと長大な物語がキツイ部分もありますが、拾いものの逸品ではあります。

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