紙の罠 近藤&土方コンビ 別題『顔のない街』 |
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作家 | 都筑道夫 |
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出版日 | 1962年01月 |
平均点 | 5.67点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 5点 | 虫暮部 | |
(2022/11/10 12:18登録) なんだかごちゃごちゃした話。みんながみんな軽くウィットを効かせた話し方なので、効き目が薄いし人物の書き分けに貢献出来ていない。更に問題なのは、二転三転する物語を転がす要所々々のアイデアがそれほど面白いとは思えないこと。 そして、末尾近くの大乱戦で “終幕” な気分になってしまったが、――“畜生、あの紙、もったいねえなあ。なんとかならねえか”――考えてみるとあの状況で諦める理由ってあるか? |
No.2 | 7点 | 雪 | |
(2020/03/19 13:34登録) 谷中初音町のアパートであおむけにねころがっていた近藤庸三は、紙幣印刷用のすかし入りみつまた和紙が輸送中に強奪されたというニュースを聞きつけ動き出した。そんな紙を贋札につかおうとするような完全主義者なら、完璧な版をつくらせたいと思いはしないか。 近藤は凹版彫刻の名人・坂本剛太の身柄を押さえて強奪犯と取引し、利益の上前を撥ねようと目論むが、旧知のステッキの男・土方利夫や尾行の名人・沖田をはじめとする胡散臭い連中は既に動き出していた。まずは沖田にさらわれた製版師・坂本をこの手に取り戻さなければならない。印刷用紙をめぐり二転三転するストーリー。果たして、悪党たちが入り乱れる争奪戦の行方は? 『飢えた遺産(なめくじに聞いてみろ)』(1962年7月)に引き続き、同年9月桃源社より刊行されたナンセンス・アクション長編。雑誌「特集実話特報」1962年4月9日号~1962年7月9日号までちょうど三ヵ月間、7回に渡って連載された中篇『顔のない街』に百枚あまりの加筆訂正を加えて発表したもの。その間8月には三冊目の前衛本格『誘拐作戦』を講談社から刊行する八面六臂の活躍で、当時の著者の創作意欲が最盛期にあったことが窺えます。 宍戸錠、長門裕之、浅丘ルリ子等のキャストで同年12月1日に封切られた日活映画『危(ヤバ)いことなら銭になる』の原作でもあり、都筑作品としては初の映画化。脚本家の中には池田一朗こと、後の隆慶一郎の名前も。秀作として知られた作品で、鈴木清順『殺しの烙印』などとともに〈日活100周年邦画クラシック GREAT20〉にも選ばれました。監督は清順や岡本喜八と併せてモダン派と称された中平康。 小説の方は悪党パーカー+ドートマンダーを2で割って、前作からの小道具趣味をスパイスとして少々振り掛けたような味わい。ただし桃源社版あとがきに〈ひとつの大きな事件のなかで、主人公がつぎつぎに出会う小さな事件をどう切りぬけていくか、そのおもしろさを狙ったもの〉とある通り、場面転換の目まぐるしさはそれらの比ではありません。 前作からすこし傾向をちがえたオフ・ビート・アクション(わざと主役を目立たせず、派手な立ち回りとのミスマッチを狙う)の趣向もマイナスに働きあまり効果は上がらず、事件に次ぐ事件で最終的には1ダース余りの死体が転がる結果、物語の山がぼやけてしまった感じ。話の凝り様は初期作品中一番と言ってもいいのですが。この手の軽快な小説に適切にアイデアを盛り込み、上手く仕上げるのはなかなか難しいですね。 角川文庫の都筑道夫の中でも比較的早く絶版になり、入手しづらかったもの。次作『悪意銀行』と共に《近藤&土方》シリーズとしてちくま文庫から復刊されたのは僥倖。同書にはニトログリセリンを抱えた立て籠もり事件に近藤&土方コンビが絡むシリーズ短篇『NG作戦』も併録。あまり運のない本なので、興味のある方は早めに押さえておく方がいいかと思います。 |
No.1 | 5点 | 江守森江 | |
(2010/06/18 07:04登録) 一部のブログで一番面白い都筑作品だと絶賛されていて、興味を持ったが近場の図書館には無かった為になかなか読めなかった。 出版当時に植木等やフランキー堺主演で映画化していたら楽しい映画になっただろうスラプスティック・コメディだが、今読んで笑い転げるにはチョイと古臭い。 紙幣用の紙と偽札偽造を巡ってドタバタするのは王道かつコテコテな展開過ぎる。 作者らしい細かな気付きや小さな捻りがミステリとして冴える一方で、読み飛ばして笑うと言う作品本来の目的が霞んでしまった惜しい作品。 この手のスラプスティック・コメディは役者の技量が冴える映画の方が小説より面白い。 ※近藤&土方コンビと後に銘打たれるが、この作品ではコンビで活躍はしないし沖田も居るので最初は似非新撰組シリーズにでもする予定だったのだろう。 |