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ミステリの祭典

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緊急深夜版

作家 ウィリアム・P・マッギヴァーン
出版日1959年01月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 8点 人並由真
(2023/07/28 16:10登録)
(ネタバレなし)
 アメリカのどこかの港町。そこは裏社会と繋がる現市長ショオ・ティクナーによって牛耳られる悪徳の町だったが、次期市長選の対立候補で48歳の弁護士リチャード(リッチ)・コールドウェルは愚直な理想主義を掲げ、市政の改革を図っていた。だがそのコールドウェルが、泥酔して、イタリア系マフィアの青年フランキー・チャンスの恋人エデン・マイルズを殺害した容疑で逮捕された。地元紙「コール・ブリティン」の社会部記者のサム・ターレルは事件の取材をするうちに、顔なじみの57歳の巡査パディ(パトリック)・コグランが、たまたま現場から立ち去る怪しい人物を目撃したとの証言を得る。だがコグランは直後にその証言を撤回。裏には、現市長と結託した地方警察上層部の圧力があった。ターレルは独自に事件の真相を追い続けるが。

 1957年のアメリカ作品。
 マッギヴァーンの12番目の長編(別名義含めてカウント)で、作者が完全に脂が乗って来た時期の一冊。

 評者にとってはいつかじっくり読みたいと、トラの子でとっておいた一冊だが、数十年前に購入した再版のポケミスが見つからず、仕方なく初版を安くネットで古書で買い直した。
 期待通りに骨太・剛球の社会派ミステリで、しっかり小説として読ませる。読み手を飽かさず惹きつけるストーリーの流れももちろんよろしいが、主人公ターレルが本作のヒロイン格のナイトクラブ歌手コニー・ブラッカーと関わるあたりなど、実にいい。殺されたエデンの友人で事件の重要情報を握っているコニーだが、保身のためにその情報を秘匿。ターレルは黙ってデートに誘い、市政の不正にあえて無関心を装う中流~準・上流家庭のパーティに連れて行って、事なかれ主義の連中のいやらしさを見せつける。そんなターレルがコニーの良心にかける圧に対し、こんなやり方もまた卑怯だという意味合いでコニーが怒り出すくだりなんか、ため息が出るほど良い。
 登場人物の配置はおおむね図式的だが、そう思っていると足を掬われる描写があちこちにあり、作品の厚みを感じさせる。

 とはいえ終盤のどんでん返しは(中略)だが、そこで終わらず、本当の……まあ、この辺もあまり詳しく書かない方がいい。

 やっぱり黄金期のマッギヴァーン、実にいい。自分が1950~60年代前半のアメリカの社会派ミステリ(人間ドラマ成分多めのもの)に求めるものの大方が、ここにある。優秀作。

No.2 6点 クリスティ再読
(2017/02/07 22:38登録)
社会派かハードボイルドかを二択で考えたら、本作とか社会派だろうね。マッギヴァーンって文章はいわゆるハードボイルド文じゃないし...で、当初ありがちな社会派、腐敗した市政と黒幕vs新聞記者という話で読んでいた。まあ社会派とはいってもね、「スミス都へ行く」くらいの感じの汚職+腐敗で、松本清張のリアリズム感には程遠い。
だけどね、実は本作、ラストが非常に盛り上がるのだ。編集長カーシュと主人公の記者ターレルとの関係が、職場の上司と部下という関係を越えて、擬制的な父子っぽい情愛があるにも関わらず....というあたりで、最終的な真相の暴露と編集長の職業倫理によるケジメのつけ方が感動的である。こういう感じでドラマを作るとは思ってなかったな(本作は初読)。

君の心のなかにある人物像を再建しようと思ってな....

自分の悪事を暴かれても、人はそれほど「悪く」なれるものではない。人間の善悪で振れるその振幅の中に、ドラマをうまく組み込むマッギヴァーンの職人技を味わうのがいいだろう。

No.1 6点
(2016/03/12 16:02登録)
マッギヴァーンが若手の新聞記者を主人公にして描いた本作は、海外のジャンルにも社会派があれば、それに投票したい作品でした。まあハードボイルドと言っていいとは思いますが、ハメット等正統派だけでなくスピレイン等にも共通する雰囲気は、それほど感じられません。
市長選挙戦の最中、理想主義の改革派候補が殺人容疑で逮捕される事件で、担当した警部がその容疑を否定する証拠を握りつぶそうとしている状況ですから、黒幕は最初から明らかです。それでもひねりはあって、実は第2の殺人(最初は自殺として処理されますが、ミステリ初心者でも殺人だとすぐ気付くでしょう)が起こった時点で、それならば当然こうなるだろうなと思ったことがあったのですが、やはりそうでした。そしてラストはその点を利用してうまく盛り上げてまとめています。前作『ファイル7』に比べると人物造形が平板という不満もあるのですが。

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