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ミステリの祭典

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砂のクロニクル

作家 船戸与一
出版日1991年11月
平均点8.00点
書評数3人

No.3 8点 あびびび
(2020/02/11 23:43登録)
ここに投稿される方は、ギャンブルに興味はない思いますが、当時、ボートレース住之江の選手控室(記者をやっていた)に転がっていた作者の「猛き箱舟」は、本当に面白かった。としても、読書に興味のない自分は、他の本を読む気はさらさらなかった。

その後、一人旅をするようになり、移動の合間に本を読んだ。推理小説にはまった訳だが、いろいろ読んで20年。ふと、船戸さんを思い出した。そして手にしたのが「山猫の夏」。やっぱりこの人の作品は面白い!と思って次を検索した。その中で口コミの一番評価が「砂のクロニクル」だった。中東、アラブの問題だが、安易ではない。さいとうたかお氏に依頼され、「ゴルゴ13」のシナリオも書いていたらしいが、誤魔化しの効かない物語の流れがある。クルド人の苦悩が、他人ごとではなくなってくる。

No.2 8点
(2019/03/13 11:45登録)
 1980年、革命後間もないイラン。パキスタン産密造酒セヴンアップを満載したトラックに乗って首都テヘランに現れた日本人はハジと名乗った。彼を嵌め、人民戦線フェダイン・ハルクから追放した裏切り者を探し出し、恋人シーリーン・セイフと再び革命を闘うために戻ってきた男。
 ハジは元国家治安情報局員オマル・ムルクと対決し裏切り者の名を知るが、シーリーンの弟で革命防衛隊所属の少年サミルに撃たれ川に転落し、左脚を失う。
 その9年後の1989年ロンドン。〈ハジ〉の暗号名を持つもう一人の日本人駒井克人は、ふたりのクルド人から武器商人として仕事を受ける。ホメイニに痛撃を与え、クルドの聖地マハバードを奪回するため、クルディスタンに二万梃のカラシニコフAKMを運び込むのだ。
 その頃イランでは、イラン・イラク戦争を経て革命防衛隊が肥え太り、腐敗が蔓延っていた。未だ革命の理想に燃えるサミル・セイフは、死を覚悟してクルド人有力者の財産と女を奪った地区司令ラシュワルを粛清するが、情報分析部副部長ガマル・ウラディに救われ、クルド弾圧の密命を帯びてマハバードに赴く。
 銃器の到着を待ちわびるザグロース山脈・ケルネク山のゲリラ基地にも、イラン・イラク双方のクルド人たちが集まっていた。サラディンの異名を名乗るイラクのクルド人ゲリラ、ジャマール・ロディンとその妹ハリーダ。彼女に恋するイランのクルド人ゲリラ、ハッサン・ヘルムート。そしてハッサンが心を許すのは、死を誘うような、それでいて生命力に溢れた眼でこちらを見つめる隻脚の隠者・東洋人ハジ。
 なにかに導かれるようにマハバードに集う人々。カラシニコフが歴史の歯車を動かし、クルドの悲願は成就するのか?
 1989年6月10日~1991年1月13日まで「サンデー毎日」に連載された基本稿千二百枚に、四百枚弱の修正を加えて上梓されたもの。第五回山本周五郎賞受賞(なお「猛き箱舟」は第一回の候補作)。
 作中の年表にもあるようにイランの最高指導者ホメイニ師の死が89年6月3日で、雑誌連載開始の一週間前。計算尽くかは分かりませんが、非常にタイムリーな時期に発表された作品です。
 スケールも過去最大級。空路も駄目、海路も駄目ということで、グルジア・マフィアがソ連国内の軍事基地で買い付けたブツを、世界最大の淡水湖・カスピ海経由でイランに搬送するのですが、輸送計画が始動するのは残り1/3になってから。テヘラン→ロンドン→モスクワ→イラン国内→アゼルバイジャン共和国の首都バクーと、舞台を転々とさせながら、じっくりとキャラクター達が描かれます。後はマハバードでの激闘と、一気呵成のラストまで待ったなし。
 船戸の最高傑作としておおむね評価の確定した作品ですが、主要ファクターの一つが宗教なせいか「山猫の夏」に比べ、ややキャラクターの魅力に欠ける面があります。〆の「終の奏 星屑の唄・風の囁き」があまりに素晴らしいので、世評にはこの部分の影響がかなりあると思います。個人的にはギリ8点。

No.1 8点 kanamori
(2010/05/09 18:31登録)
クルド独立運動を舞台背景にした骨太の傑作冒険小説&壮大な抒情詩。
この時期の船戸の小説は、海外の紛争地域に日本人を投げ入れて引っ掻き回したり、緻密な現地取材に基づく歴史の証言者に設定したりがパターンで、本書はその決定版だと思います。
各章で銃撃戦の騒音が溢れ、幾多の血が流れます。単なる冒険小説としても怒涛のサスペンスに浸れますが、宗教と民族の紛争に対するメッセージ性が強いのが好みの分かれるところかもしれません。

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