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ミステリの祭典

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九十九本の妖刀
ミステリ珍本全集

作家 大河内常平
出版日2015年03月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 5点 ボナンザ
(2021/01/22 23:06登録)
刀に関する作者の執着と当時のエログロ趣味を合わせた作品集。もう少し突き抜けたものが欲しかった。

No.2 6点
(2020/11/23 05:31登録)
 昭和二十四(1949)年、岩谷書店・百万円懸賞コンクールA部門で処女作『松葉杖の音』(後に『地獄からの使者』として刊行)が鮎川哲也『ペトロフ事件』、島久平『硝子の家』等と懸賞金を争い、1950年代から60年代前半には雑誌「探偵倶楽部」「探偵実話」に通俗物を発表。異色の探偵作家として知られる著者の、没後に刊行された初めての著作集。本書には表題作及び『餓鬼の館』(妖異かむろ屋敷)の伝奇二長編に加え、鑑定家としての知識を存分に生かした刀剣ものミステリ八篇を収める。
 長篇作品はいずれもキワモノ風で、"古来からの因習を遵守し、刀を崇める謎の集団"などプロットの使い回しも目立つもの。同じ刀剣ミステリでも森雅裕とは異なり境界線を越えてオカルト側に踏み込んでいるが、"求道のあまり"という免罪符があるせいだろうか。エログロの極みでもそれ程厭らしさは感じない。終戦直後という時代背景からくる武士道精神や、忠君的な思考の残滓も、題材の臭みを消すのに一役買っている気がする。ヤクザや与太者連中の生き生きした描写や、方言や土俗臭といったアングラな要素も心地良い。横溝正史などにも通じるおおらかで独特な味である。
 全般に短篇の方が面白く、その中でも抜きん出ているのはやはり「安房国住広正」。パトロンが刀匠の焼入れの儀(刃紋の最終仕上げ)を見守るさなか密室状態の隣室で、〈地震か津波にもにた、激しいゆらぎや家鳴りとともに〉門弟が喉を突いて自殺した謎を扱ったものだが、雰囲気や盛り上げ方もさることながら、犯行後の脱出手段に加え動機にも工夫を凝らしており、戦後の名品と言っていい。
 残りの中短篇は年代順に 妖刀記(吸血刀の惨劇)/刀匠/刀匠忠俊の死/不吉な刀/死斑の剣/妖刀流転/なまずの肌 。発表はそれぞれ昭和二十六(1951)年1月から昭和四十(1965)年2月まで。ほぼ同一オチの「刀匠忠俊の死」「不吉な刀」や、例によって"名刀の生贄"系の(またかい)「妖刀記」「死斑の剣」もあるが、後者の方は困った事に面白い(笑)。〈田中英光に一脈似通った、アクチュアルで荒削りなのに繊細で端正な名文〉との一文が月報にあるが本当にその通りで、異様な迫力と刀剣ノウハウでひたすら押しまくる小説である。
 中篇「妖刀流転」は娯楽ものの連載だが、散々引っ張った割にはアッサリ気味で、これらに比べるとそれ程の出来ではない。トリの「なまずの肌」はワンアイデアの短篇だが、動機の書き込みが不十分であまり頂けない。単行本未収録作品で買えるのは、他流の作刀秘伝を巡る刀工師弟の相克を描いて山村正夫氏が推す「刀匠」と、完全ホラーで開き直った「死斑の剣」の二篇だろうか。どちらも「安房国~」には及ばないが。
 以上長中短取り混ぜて全十篇。作品の内容はともかく、ちょっとクセになりそうな作家さんである。

No.1 6点 kanamori
(2015/08/08 18:32登録)
日下三蔵編「ミステリ珍本全集」の7巻目(第2期の第1回配本作品)。
「九十九本の妖刀」「餓鬼の館」の長編2本に、密室ミステリの隠れた名作「安房国住広正」ほか7編の短編が併録されています。刀剣の蒐集、鑑定家としても知られる作者らしく、収録作はいずれも刀剣がらみのややマニアックなラインナップになっています。

表題作の「九十九本の妖刀」は、東北の山間で旅芸人一座のストリップ嬢2人が何者かに拉致されるという発端から、エロ・グロ、猟奇的な場面が横溢する伝奇ミステリの怪作。噂にたがわぬ異様な内容ながら、文章、構成とも意外としっかりしていて楽しんで読めました。
「餓鬼の館」は、新しく赴任した水戸の陸軍師団長の一家が、広大な屋敷の中に棲みつく怪異に対峙するといった怪奇ミステリ。刀鍛冶〇〇の末裔とか、女性ばかりを拉致する謎の集団など、基本プロットは「九十九本の妖刀」となんとなく似ている気がする。
「安房国住広正」は、密室状況の刀鍛冶場の控えの間で、刀匠の弟子が不審死するという内容のガチな本格ミステリ。ディクスン・カーを髣髴とさせる雰囲気と、(推理クイズ本にも採られた)密室トリックが印象に残る不可能犯罪ものの傑作短編です。
そのほかの短編は「妖刀記」「刀匠」はじめ、刀鍛冶そのものを素材にした奇譚や犯罪小説で、ちょっとマニアック過ぎる感じがしました。

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