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ミステリの祭典

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虹男
新聞記者・明石良輔

作家 角田喜久雄
出版日1948年04月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 7点 人並由真
(2019/12/30 20:45登録)
(ネタバレなし)
 夕刊紙「新東洋」の青年記者・明石良輔は、都内のペット売り場で続発する金魚毒殺事件をマーク。不審な少年の犯行現場を目撃した。良輔はその少年の遺留品である紙片を回収。そこに書かれていたのは「摩耶家」に近く起こるとされる「虹の悲劇」という謎の文句だった。摩耶家とは、実験物理学の権威で、変人として知られる摩耶竜造の家庭と目星をつけた良輔。彼は、懇意の警視庁の刑事・岡田警部とともに同家に接触を図るが、間もなく同家のゆかりの者たちが「虹が見える」と言い残しながら、続々と不審な死を遂げていく。そんな事件の陰には、陰陽道の時代から摩耶家に伝わる伝説の怪人「虹男」の存在が……!?

 1947年に「第一新聞」に連載された、謎解きスリラーの新聞小説。
 評者は20~30年年前に、テレビの深夜放送でノーカット放映された大映の映画版(特殊効果の映像が一部現存していないが、それ以外はほぼ完全版)を視聴し、作中の重要なキーワード「虹」の正体はその時に知った。
 たしか、あちこちの書籍などに掲載されている映画版の解説を読むと、この虹の正体について触れていると思うので、原作や映画のネタバレを回避したい人は映画版の解説記事などは、なるべく遠ざけた方がいいかもしれない(全部が全部、ネタバレしている記事ばかりではないだろうが)。

 とはいえ現時点の評者は、大昔に観た映画の内容もほぼ忘却。その「虹」の正体以外はまったく記憶がないまま、今回、原作の本書を読んだ。だからストーリーがどれくらい小説と映画で違うかもわからない。もちろん(初読なので)原作小説の事件の流れも犯人も、まったくわからない。今回はそういうポジションで通読した。

 それで読み終わっての感想だが、原作小説に関しては、思っていた以上にしっかりした(通俗スリラー的な興味は濃いものの)「館もの」風の謎解きパズラーで、フーダニット。
 連続殺人の進行のなかで登場人物の頭数が減ってきて容疑者が絞られてしまうという、おなじみの構造的な辛さはあるが、作者の方も(当時のこの種の作品としては)相応の工夫と趣向を凝らし、相応の意外な着地点にまで読み手を引き込もうと努力している。まあ70年も前の旧作だから(中略)な部分も少なくはないが。
 事件の真相はやや破格な面もあるが、登場人物それぞれの心理の交錯を踏まえるなら一応は納得の行くものだし(前述の容疑者が絞られてゆくことなどへの勘案や対策は乏しいが)、怪奇趣味の漂う館もののサスペンススリラーに謎解き要素を組み込んだ作りとしては、まずますの佳作~秀作であろう(手掛かり&伏線の中には、結構ニヤリとさせられるものもいくつかある)。

 代表作『高木家』ほどの風格やある種の文芸味は無いが、これはこれでなかなか腹ごたえのある一編。

No.2 6点 nukkam
(2015/03/04 18:00登録)
(ネタバレなしです) 1948年発表の明石良輔シリーズの長編本格派推理小説です。雨の中とか部屋の中とかありえない状況下で虹を目撃した人が次々に死に、エキセントリックな容疑者たちは不安におののきながらも何かをひた隠します。怪異に満ちたサスペンス小説的な雰囲気が濃厚で、洗練された加賀美捜査一課長シリーズとは違う一面を見せます。虹トリック自体は噴飯物ですが、それが弱点には感じられないほど作品個性が強烈です。おどろおどろしさは好き嫌いが分かれるでしょうけど。

No.1 7点 kanamori
(2010/04/30 22:40登録)
摩耶家殺人事件。もう一人のシリーズ探偵である新聞記者・明石良輔ものの探偵小説です。
「高木家の惨劇」が優等生的な探偵小説で著者の代表作ならば、本書はトンデモ系の裏ベストだと思います。
冒頭の、何故か金魚に執着する知恵遅れの少年の登場から、口から虹を吐く男、虹を見ると変死する設定など、奇想と怪異のオンパレードです。戦前の乱歩の通俗探偵小説の様相ながら、最後は合理的?に解決に持っていく力技に敬服します。

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