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ミステリの祭典

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殺人者は長く眠る
改題「草軽電鉄殺人事件」

作家 梶龍雄
出版日1983年01月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 6点
(2020/04/29 07:58登録)
 夏季ダイアになったばかりの昭和三十四年七月十五日、長野県軽井沢と群馬県草津温泉間五十五・五キロを継ぐ高原列車、草軽電気鉄道の車内からある女優が消えた。その名は当時人気のまとだった北星映画のスター、白川梨花。彼女は付き人の元女優・山本春江と共に下り一番列車三〇一号北軽井沢行きに乗り込んだのち、最初のスイッチ・バック駅である二度上(にどあげ)で手洗いにと座席を立ったまま永遠に姿を消したのだった。
 目撃者は誰もおらず、懸命の捜索にもかかわらずその消息は掴めなかった。事件から三年後には草軽電鉄も運行停止・全線廃止の運命をたどり、のびやかにして優雅な電鉄の名残が次第に失われてゆくにつれ、劇的な失踪を遂げた未完の大女優・白川梨花の名もまた忘れられていった。
 それから二十四年後。旧軽のメイン・ストリートから少しはずれたカラマツ林の中の画廊に"女優Rの肖像"という画題の絵が掛けられる。胸苦しくなるほどのモデルへの情念に溢れた、ブラッシュタッチの肖像画。その絵は眠っていた殺人者を揺り起こし、二十四年の時を越えて夏の軽井沢に再び惨劇を起こすのだった・・・
 1983年11月刊。旧制高校シリーズ第二作『若きウェルテルの怪死』、旧制中学を舞台にした第一短編集『灰色の季節』と同年の作品で、先に評した『金沢逢魔殺人事件』の前作。画廊に飾られた絵を発端に、梨花の孫娘でかなりエキセントリックな少女ユカと、信奉者の一人であった社長の会社に勤務する青年・高室雄司の二人が事件の謎を追うことに。軽井沢の地図と付き合わせて現場を確認するのが楽しく、ユカの口調は多少わざとらしいものの許容範囲内。コケティッシュな仕草も見せるので、他の作品ほどにジェネレーションギャップは感じません。
 手掛かりの細かさはいつも通り。内容もどちらかというと手堅く、大技ではないにしろそこそこ充実。既視感のあるメイントリックも効果的な誤誘導で、なかなか尻尾を掴ませません。実を言えばモロに引っ掛けられたせいか、ここ最近の梶作品の中では最も楽しめました。殺害手段もキャラ設定に沿ったもので、よく出来ていると思います。
 ただあれだけ執着したにしてはああなるのはどうかなと。それだけエゴイスティックな犯人という事なんでしょうが、若干割り切れないものが残りました。それでも良作ということで、点数は7点に近い6.5点。

No.3 6点 nukkam
(2016/07/07 09:04登録)
(ネタバレなしです) 1983年発表の本格派推理小説で1989年に「草軽電鉄殺人事件」というトラベル・ミステリー風なタイトルに改題されましたがオリジナルタイトルの方が合っていると思います。現代の探偵役が24年前(1959年)には存在していた草軽電鉄で起こった女優の失踪事件の謎を追求するのがメインプロットで凶悪犯罪性を帯びてくるのは物語のかなり後半です。kanamoriさんやこうさんのご講評の通り失踪トリック自体は某英国作家の作品を連想させるものですが、トリックよりも事件の背景に隠された陰謀性というか悪意の深さに驚かされます。探偵役の男女がそれぞれ秘密を抱えている描写にしているのも謎を深めるのに効果的です。

No.2 6点 こう
(2012/04/01 00:49登録)
 廣済堂文庫の草軽電鉄殺人事件で読了しました。
 このプロットは海外作品の転用ですが楽しめました。ただ〇〇〇〇がある日本で実現可能なのか30年代なら可能だったのかちょっと疑問に感じるのと、連城作品の様な抒情性が欲しいストーリーですがそれを感じられないのが残念です。また犯人が小物の印象で、騙される被害者もばかだなあという印象が残りました。

No.1 6点 kanamori
(2010/03/03 16:08登録)
女優だった祖母が草軽鉄道から不可解な状況で消えたという。
数十年前のこの謎を主人公は孫娘と称する少女とともに追うことになる・・・これは楽しめた。
トリックは前例があるけれど、なんとなくロス・マク風のプロットがいい味だしてます。

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