変人島風物誌 |
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作家 | 多岐川恭 |
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出版日 | 1961年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 4人 |
No.4 | 7点 | 人並由真 | |
(2021/01/02 06:18登録) (ネタバレなし) とある病院施設の一室から「私」こと塚本春樹は、事実上休筆中の作家、栗林冬彦の秘書として瀬戸内海の小島・米島で過ごした日々の事を回顧する。変人が集い住む事から「変人島」の異名で知られる米島だが、そこは不可解な密室殺人を端緒に、相次ぐ惨劇に見舞われた……。 1961年の国内書き下ろし作品。評者は2000年の創元文庫版で読了。 作品の巻頭に島全体を俯瞰した地図が掲載され、さらにその前に「これは犯人当てゲームをめざした小説」「フェア・プレイだけは、できるだけ努力したつもり」との作者の前説が掲げられる。正にガチガチの謎解きフーダニット。 創元文庫版は別長編『私を愛した悪党』との合本ゆえ、本作『変人島』の紙幅は実質230ページ弱とそんなに長くないが、なかなか中身は濃い。 多岐川作品に通底する(と思える)、ある種のクセの強さと洒落っけが混じり合ったような感触は、この作品では程よいユーモアに転じており、特に語り役の「私」こと塚本の、次第に透けてくる人物像のいかがわしさが最後までいい味を出している。 終盤の解決も、かなり元版刊行の当時としては技巧的だったと思うし、犯人もなかなか意外ではあった。 が、動機が結局は(中略)な点と、大きなトリックのうちの一つとそれにからむ手がかりに対する登場人物(=探偵役)の事前の踏み込みぶりには、やや疑問が生じる。 とはいえ密室殺人の真相は、良くも悪くも昭和ミステリっぽい謎解きで、個人的には割と好み。乱歩の類別トリック集成の一項目に加えたいようなアイデアだ。 前述のいかにも多岐川作品っぽい諧謔でまとめられるクロージングも味わい深くてよし。 Aランクのフーダニット作品と認定するには、あちこちの部分で色々としょぼいんだけれど、それでもケレン味に富んだ1.5級パズラーとしての魅力はいっぱい。 評価は多少オマケして、この点数で。 |
No.3 | 6点 | 蟷螂の斧 | |
(2012/09/13 16:00登録) 変人達が住む島での殺人事件が、のんびりした独自の雰囲気で描かれています。トリックは若干無理があるように思いますが、伏線はきっちりとありますので許容範囲でしょう。語り手(主人公)の飄々として、かつ助平で罪悪感を持っていない性格が、ユーモラスな雰囲気をかもち出しています。 |
No.2 | 5点 | kanamori | |
(2010/09/28 20:52登録) 瀬戸内海の小島を舞台にした犯人当てミステリ。 都会の生活を捨てた5組の隠棲者たちの間で発生した複数の殺人事件を、作家志望の青年の手記で綴ったオーソドックスな本格編でした。 主人公のソフトな語り口は読みやすいが、複雑な男女関係が少々わずらわしいのと、島の絵地図を見ても位置関係が分かりずらいのが難点。密室&足跡トリックのチープさは時代性を考えれば止むを得ないのかもしれません。 |
No.1 | 6点 | こう | |
(2009/12/13 01:12登録) 小さな島に集まる変人たちの中で集まる連続殺人事件を扱った「変人島風物誌」と誘拐された少女が行方不明に、そして21年ぶりに実家に戻るというプロローグ、エピローグがまず描かれる変わった構成の「私の愛した悪党」の2長編が収録されています。どちらも殺人が扱われているにもかかわらずやはり緊迫した雰囲気がなくのんびりした印象ですが前者は謎ときとしてしっかりした作品でしたし後者は謎ときは弱いかもしれませんがストーリーが楽しめました。 ただ書かれた時代を考えるとかなり当時では異色だったのではと思います。 |