メグレと運河の殺人 メグレ警視 別題「水門の惨劇」「運河の秘密」 |
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作家 | ジョルジュ・シムノン |
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出版日 | 1952年09月 |
平均点 | 5.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 5点 | クリスティ再読 | |
(2022/07/06 19:19登録) 初期作。シムノンというと海や船の話が多い作家なのだけども、これは運河に暮らす川船の話。戦前だから、すべての船にエンジンがついているわけじゃなくて、内陸河川だと閘門を超えるのに馬を併用する船も多い、というのが物珍しいあたり。そういう「川の民」の生活を描きつつ、ヨット暮らしの放浪者といったイギリス人の引退者(大佐)が対比される。 メグレ物だから、殺人事件があるわけだが、それはまあメグレがそういう「川に生きる人たち」の生活を覗き込むためのきっかけみたいなもの。ミステリはあまり期待すべきではない....けどもさあ、真相(というか話)はかなり無理あるように感じる。 それでも、場面場面の描き方は本当に感心する。初期は客観描写が多くて、中期以降のようにメグレの内面はほとんど描かない。だから映画みたいなタイトな描写の美しさを感じる。場面を絵として想像すると本当に美しさが際立つ作品なんだけど、話は結構ヘン、というか「こんなのアリ?」というくらいにバランスがおかしい。まあ映画で言えば「かくも長き不在」なんだどもね。ああいった庶民の生活の哀歓を、冴えたモノクロの映像美で描いた小説。 |
No.2 | 6点 | 雪 | |
(2018/08/21 01:53登録) マルヌ川とソーヌ川を結ぶ運河の村デイジーの水門付近で女性の遺体が発見された。死因は扼殺。〈サザン・クロス〉号の船主ランプソン大佐夫人メアリーは、数日前から行方不明になっていたのだ。だが司法解剖の結果、なぜか彼女は殺害前に数日間生かされていると判明した。さらに続けて〈サザン・クロス〉の乗員ウイリーが殺され、現場にはランプソンの所属するヨットクラブのバッジが落ちていた。だがメグレは別船〈プロヴィダンス〉号で船の一部の様に扱われている、魯鈍な大男に目を向ける――。 メグレシリーズ2作目。なんと初期も初期、処女作「怪盗レトン」の次に書かれた作品です。今回はほぼプロットの妙とかありません。ドラマ全振り。 メグレが馬車道をせっせこ自転車漕いだりとか所々面白い場面はありますが、基本的にパッとしない話が続きます。特に意外性も無い。 しかしですね、これが突然宗教画のような美しいエンディングを迎えるのです。「運命の修理人」メグレは、最後に犯人と被害者の物語を編み上げてゆく。そして平凡なストーリーは類の無い物語に変わる。「怪盗レトン」ではまだエンターテイメントの範疇に留まっていた、シムノンの作家としての特質が存分に発揮されます。 被害者の旦那も良いですね。一族から半ば放逐されて自堕落な生活を送っている、シリーズによく出てくるタイプですが、英国紳士で芯には凛とした所が残っている。ラスト二章はこの大佐と、犯人と、そしてメグレの三者それぞれの心情が滲み出ていて印象に残ります。 という訳で読後感は非常に良いのでした。トータルでは多分凡作でしょうが。 |
No.1 | 5点 | 空 | |
(2009/11/11 22:37登録) フランス1930年ごろ、運河での荷物運搬に従事する船上生活者たちや運河沿いの居酒屋、それに水門管理者たちの様子が生き生きと描かれているという点では、さすがです。シムノン自身、本作を含む初期メグレものを書いたのは船で暮らしながらだったそうで、そのことも作品にリアリティーを与えているのでしょう。 しかしミステリとしてみると、複雑な謎解きは最初から期待していないにしても、どうも今ひとつ冴えません。中盤ごろまでの段階で犯人の描写がごく少ないせいか、最後で一気にその犯人と被害者の悲しい過去が明らかになっても、感動を盛り上げるための前段階が欠けていて効果が充分に出ていないように思えるのです。 メグレ警視が何十キロもの距離を自転車で走っているところはちょっとユーモラスな感じもありました。 |