蜃気楼博士 |
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作家 | 都筑道夫 |
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出版日 | 1975年11月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | 雪 | |
(2021/04/09 11:27登録) 「中学二年コース」1969年5月号~11月号連載の表題作に、同じく草間昭一・次郎兄弟が活躍する作品を加えたジュブナイル中短編集。収録作は 蜃気楼博士/百人一首のなぞ/午後5時に消える の三本。衆人環視のなか入念に密室内に閉じ込められた霊媒が、〈守護霊の力を借りた〉と称し何度も予告通りに殺人を行うという不可能犯罪を扱ったもので、その謎を暴こうとする元奇術師・久保寺俊作こと蜃気楼博士(ドクター・ミラージ)との、霊能力者VSマジシャンの鍔迫り合いがストーリーの軸となる。久保寺のおじさんは兄弟の祖父・草間博士の元研究助手で、二人にとっても親しい存在。推理における次郎少年の師匠格でもある。 扱われる事件は殺人三件と正当防衛、そして変死二件。第一第二の事件に用いられた凶器の〈改め〉も事前に成されており、それらが霊媒から遙か離れた殺人現場で発見される。特殊な道具やテクニックの使用は好みでないが、少年もの特有のハッタリ臭いプロットを、逆手に取ったトリックはかなり評価できる。一部マニアのように都筑道夫の最高傑作とまでは思わないが、児童ミステリの金字塔として語り伝えられるのも納得。結末近い「なぞの整理」の章で記述される次郎のノートからは、あくまでフェアであろうとする作者の気概が伝わってくる。「考えたら、負けるなよ」という蜃気楼博士の遺言もメッセージとして素晴らしい。子供向け云々の言い訳は一切なく、手を抜かずに作られた小説と言える。 続く「百人一首のなぞ」は暗号解読に誘拐事件、さらに追跡劇と多彩な内容。華やかなのは都筑ジュブナイルのオールスター作品だからだろうか。なかなか優れたトリックもあり、個人的には表題作より好み。 トリの「午後5時に消える」は一応消失ものだが、元々単発企画のためか前記二作に比べるとかなり落ちる。だが現場写真からの推理と洞察はいかにも都筑氏らしい。この手の代表格というと個人的には辻真先の『仮題・中学殺人事件』だが、本書はそれを上回るスマートな仕上がり。多感な時期に触れておかなかったのが残念である。 |
No.2 | 6点 | クリスティ再読 | |
(2019/07/31 08:44登録) 夏休みこども劇場の締めは本作。児童向けミステリの金字塔である。 今回は本の雑誌社の都筑道夫少年小説コレクションで読んだので、その昔のサン・ヤング・シリーズの「蜃気楼博士」に1968~72年に「中一時代」に連載されたフォト・ミステリ12本を収録。これも「オヨヨ島の冒険」「仮題・中学殺人事件」などと同様にサン・ヤング・シリーズの1冊だったわけで、シリーズの伝説っぷりが窺われるというものだ。たぶんサンヤングシリーズではなくて、その新装版の少年少女傑作小説集の方だと思うんだが、評者こどものときに読んだ記憶があるよ。 このシリーズだとパズラー枠は「仮題・中学殺人事件」の方がメタミステリ方面で話題になりがちなのだが、特に表題作の「蜃気楼博士」は「読者よ欺かるることなかれ」風のハッタリの効いた、ガチのパズラーなのである。しかもね児童向け、ということも影響しているんだろうけども、「フェア」にポイントがある。 児童向け、というと大正年間からの「赤い鳥」から来ているんだけども、「純真な子供だからこそ、オトナの都合の欺瞞はすぐにバレるから、真剣に向き合わなくては」という理想主義の伝統があったわけで、実のところ70年代の子供向けとして作られたTV番組なんかにも、評者はその残響を感じることがある。だから都筑道夫が児童向けミステリとして「真剣に子供に向き合う」とすると、やはり「フェア」ということが譲れない部分になってくる。本作の児童向けミステリは、すべてロジカルで、フェアであろうとする都筑の真摯さが伝わってくるのだ(まあ無理筋はあるけどね...)。 このロジカルでフェア、という都筑の美点はもちろん本来の大人向けでも発揮される特徴なんだけども、逆に言うと「蜃気楼博士」みたいなカー風のハッタリは、大人向けじゃあ大時代的すぎてやりづらい...となるのが、「モダン」を極めた都筑道夫らしいあたりだと思う。そういう意味では、フォトミステリの最後の作品である「赤い道化師」がいかにもの乱歩スリラー風なのを、極めて合理的にひっくり返してみせるあたりに、都筑の乱歩に対する愛憎みたいなものを感じるのも面白い。 (そのうち「黄色い部屋はいかに改装されたか」やんなきゃなあ) |
No.1 | 6点 | 江守森江 | |
(2009/06/09 06:40登録) 少年向け本格探偵小説集。 初出版は全3話。 少年小説コレクション版はオマケ的推理クイズ小説12話が加わる。 全3話読者挑戦物で、特に“表題作”は少年向けだからとスルー出来ない本格テイスト全開な作品。 作者のあとがきも本格ファンには嬉しい。 少年時代に“これ”に出会っていたら宝物になっていたと思わせる懐かしさがあった。 |