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ミステリの祭典

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奪回
競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1985年01月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 8点 ことは
(2021/08/28 21:14登録)
いやぁ、よかった。フランシスはまだ10数作しか読んでいないが、文句なしに一番良かった。
この頃のフランシスには、発表当時に人気があった「情報謀略小説」(クランシーとか)の影響だろうが、特定の業界をリサーチして反映した作品がある。本作は誘拐対処企業。これが興味深くて、前半からすぐに作品世界に入れた。
そして、ヒロイン役のキャラ造形がかなり好み。主人公との関係では、距離感が微妙で、その距離感もまた好み。
最後の展開はやや定形どおりだが、そこで伝えられるヒロイン役の言葉にはぐっときた。ベタでも、こういうのは好きだな。
アマゾンの感想で「初期の話とはだいぶ雰囲気が違う」と書いている人がいて、それは同感だが、きっと私は初期フランシスより、こっちの方が好き。
中期フランシス、いいなぁ。もう少し読んでみよう。

No.2 6点
(2018/10/04 15:11登録)
 誘拐対策企業リバティ・マーケット社のスタッフ、アンドルー・ダグラスは怒りに身を震わせた。ヨーロッパ有数の女性騎手、アーレッシア・チェンチの身代金受け渡しのまさにその瞬間に、功に逸ったイタリア警察が暴走したのだ。紙幣のナンバーも撮影し終え、打てる手は全て打って、後は穏便に取引を済ませるだけだったのだが。
 身代金を持参した弁護士の息子は撃たれ、車で逃走した犯人たちは近くのアパートに立て籠もった。住民の中には赤ん坊もいる。そしてアーレッシアの命は風前の灯だった。
 アンドルーは取り乱す父親のパオロを宥め、ただひたすらに犯人側からのリアクションを待つ。どのみち何らかの形で身代金を得なければ、犯罪を犯した彼らとしても引き合わないのだ。
 そして、パオロの元に二度目の電話が掛かってきた。倍近くに跳ね上がる金額、だが彼女の命は無事だ。奴はまだゲームを続ける気でいる。
 スペイン人の運転手に扮しパオロと共に指示された地点へと向かうアンドルー。だがそこで初めて彼は、誘拐の主犯である宿敵ジュゼッペと邂逅するのだった・・・。
 競馬シリーズ第22弾。今回の主人公は誘拐対策会社のスタッフ。元ロイド保険会社の社員で、犯人との金銭面での交渉や被害者及び家族のストレス軽減、解放後のアフターケアの専門家です。物語ではイタリア・イギリス・アメリカで起きる誘拐事件の顛末が描かれ、徐々にアンドルーとジュゼッペはお互いの存在を意識していきます。
 最後にはライバル、対極に立つ相似形として対峙する二人。ラスト付近で追い込まれる主人公の描写には緊張感があり、犯人との因縁も併せシリーズ初期を思わせる展開。
 リサーチもしっかりしていて、第二部での被害者救出シーンとかはかなり面白かったです。ただ、犯人ジュゼッペや恋人未満のアーレッシアとの繋がりがイマイチでしたね。ここらへんの関係性がもっと濃密であれば、フランシスのベスト級にもなれたでしょう。三部構成にした事で逆にストーリーが薄まった感じでちょっと残念。

No.1 6点 kanamori
(2012/07/25 23:07登録)
誘拐犯との身代金交渉や被害者側の精神的ケアが仕事という実在する誘拐対策会社をモデルに、その派遣員アンドルーを主人公にした競馬シリーズの22作目。

イタリア、英国そして米国と次々舞台を移して、競馬関係者を標的にした連続誘拐犯の謎の首謀者との頭脳戦を描き、終盤の窮地からの脱出など活劇的にもそれなりに面白く読めるのですが、作者らしさがあまり感じられなかった。具体的には、主人公が組織の一員でプロフェッショナルな人物ということもあるけれど、ヒロインの女性騎手との絡みが中途半端で、首謀者「彼」の人物像も悪党ぶりがあまり伝わってこなかったですね。まあこれは、ディック・フランシスだからの不満なので、冒険スリラーの水準は十分クリアしていると思いますが。

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