home

ミステリの祭典

login
ミステリ十二か月
北村薫

作家 事典・ガイド
出版日2004年10月
平均点7.33点
書評数3人

No.3 8点 Tetchy
(2019/06/02 23:16登録)
本書は北村薫版『夜明けの睡魔』とも云うべきガイドブックだ。あくまでミステリの初心者、特にミステリを読んだことのない子供たちがミステリに触れることを想定して書かれたガイドブックであるのが特徴的だ。

本書の構成は全部で4部構成となっている。
まず1年間読売新聞に掲載された毎週1編のミステリを紹介するエッセイが載せられており、それが第1部で次にその選定の裏側を語ったのが第2部、そして第3部では挿絵を担当した版画家の大野隆司氏との対談。最後に北村氏の朋友の1人、有栖川有栖氏との今回ピックアップした作品に関して存分に語る対談となっている。
つまり新聞掲載のエッセイを俎上に挙げて存分にミステリについて語ったエッセイであり、それがゆえに私は本書を北村薫版『夜明けの睡魔』と呼ぶのである。

さてまず第1部だが、ミステリの初心者への紹介ということであれば、巷間に流布する数多のガイドブック同様に江戸川乱歩氏の少年探偵団シリーズ、アルセーヌ・ルパンシリーズ、シャーロック・ホームズシリーズ、エラリー・クイーンにヴァン・ダイン、ルルーの『黄色い部屋の謎』―私はいまだにこの作品を名作として必ず紹介されるのが腑に落ちないでいるのだが―、カーに、クリスティーにアイリッシュに、と定番の、お約束の作品が紹介されているのは同様だが、随所に北村氏らしさが挿入されているのがミソ。
それは一番最初に絵本の『きょうはなんのひ?』を挙げられていることからも解る。子供たちが一番最初に触れる本とは即ち絵本だ。それならばその時点でミステリ風味の絵本を紹介したらどうだろうかという発想から選ばれている。
更に北村氏のオリジナリティを感じさせるのが新書の『白菜のなぞ』。これはノンフィクションであるのだが、この誰もが口にしている白菜の歴史には壮大な謎が隠されいたというものらしい。これも俄然興味が沸いた。

そして第2部ではこのエッセイの舞台裏が語られる。北村氏がこのエッセイの依頼を受け、引き受けた契機となったこと、連載終了後にこのエッセイを1冊の本にどうやってまとめるか、その構成などが語られる。この第2部は選書の経緯が存分に語られており、本当はこれを紹介したかったが、初心者対象ということで泣く泣く落とした。他にあれもあればこれもあるとアンソロジストの楽しくも取捨選択の苦しみが存分に書かれている。逆にディープなミステリ読者はこの第2部の方が本編よりも愉しめるかもしれない。つまり第1部からページを読み進むにつれて北村氏のミステリ愛は濃くなっていくのである。

私は第3部が意外だった。挿絵を担当した大野氏との対談は逆にこのエッセイ自体がミステリの仕掛けに満ちていることを教えてくれたからだ。この大野氏、なんと茶目っ気のある人物だろうか。まさか各編に付せられた挿絵に隠れメッセージが潜んでいたとは。この第3部ではそのネタバレが開陳されているが、それを読みながらまた第1部に後戻りして読み、新たな発見が出来るのである。いやあ、これには参ったし、楽しませてくれた。
そして最後の第4部は西のミステリの雄有栖川有栖氏との対談だ。お互いの読書歴とミステリの知識を総動員しているかの如く、次々とそれぞれのお気に入りの作品、ミステリ観が語られるこの対談が実に熱い!そして面白い!
特にエッセイで取り上げた作品について有栖川氏があの作家ならば私はこの作品を挙げるなあと云えば、それについて同意しながらも北村氏は自論を展開する。また北村氏がこき下ろす作品を有栖川氏は褒め、それぞれのミステリ観の違いを示唆する。

しかし毎回思うが北村氏の読書量には恐れ入る。なんせ小学生の高学年から文庫本に手を出したという早熟ぶりだ。
そしてその北村氏と対等に話の出来る有栖川氏の読書量と記憶力もまた並大抵のものではない。そしてこの2人だからこそ辿り着ける境地もある。紙面では読み取れない次元で彼ら2人が我々市井のミステリ読者の想像の上を行く領域でミステリに耽溺し、語らう悦楽を貪っているかと思うと羨ましくも嫉妬に駆られる自分がいる。

私もこれからどれくらい本が読めるか解らないが、これからも本は読み続けていこうという決意を新たにした。この2人の博識ぶりには到底敵わないが、本は絶対読むのを止めずに読んでいこう。死ぬまで読書を信条に。

No.2 6点 斎藤警部
(2016/08/22 18:15登録)
カワイクてタメになる愉しいエッセイ本。 入門したての人にも薦めたい。
ほんのこころもちカワイイだけじゃないカラーのイラストがまた絶妙。

No.1 8点 パンやん
(2016/06/29 07:26登録)
現役作家の書いたとても丁寧なミステリーガイドで、古典ミステリーの読み方の案内書でもあり、本格ミステリー好きの為のエッセイ集でもある。読んだ本はどんどん処理する小生にとって、長〜く手元にある愛読書にて、全ての本好きにオススメしたいカワイイ本でもある。

3レコード表示中です 書評