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ミステリの祭典

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ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編
恐怖の四季

作家 スティーヴン・キング
出版日1988年03月
平均点8.33点
書評数3人

No.3 7点
(2019/03/12 09:42登録)
「刑務所のリタ・ヘイワース」
映画「ショーシャンクの空に」の原作といったほうが、わかりやすいだろうか。
映画は痛快、感動ものである一方、原作はそのあたりは控えめで、しかもボリュームが170ページなのであっさりとした感じがする。
でも決して悪いわけではない。エピソードが要所、要所に披露されるのがよいし、レッドとアンディーの友情物語という骨格ももちろんよい。そして、ラストも言わずもがな。
副題のとおり、希望に満ちた春らしい作品だった。

「ゴールデンボーイ」
強烈な300ページ超の長編だから、乗れば満足すること間違いなし。
話は静かに始まるが、少年トッドと、老人ドゥサンダーの交流は徐々に凄絶さが増していく。
悲劇の主原因はトッドにあるが、ドゥサンダーもかなりのくせ者で手ごわい存在。この二人がぶつかり合ったり、協力し合ったりする中盤までも楽しめるが、後半の場面転換後から結末までがまたすさまじく読み応えがある。
副題のとおり、まさに転落の夏物語だった。
少ない登場人物でサスペンス感を表出した、ジェームス・ケインの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」や、ルース・レンデルの「ロウフィールド館の惨劇」などが好みの方なら、間違いなく楽しめるはず。

キングの文章や表現方法は、他人行儀なところがなく、身近に感じるところがいい。特に「刑務所のリタ・ヘイワース」のレッドの語り口には魅かれる。
なかなかこういう作家にはめぐりあえない。ほんとうに素晴らしい。

No.2 8点 Tetchy
(2017/10/04 23:44登録)
キング版枕草子とも云える本書は4編中3編が映画化され、しかもそのいずれもが大ヒットしていることが凄い。それほどこの中編集には傑作が揃っていると云っていいだろう。

まず物語の四季は春から明ける。この季節をテーマに語られるのは「刑務所のリタ・ヘイワース」。副題に「春は希望の泉」と添えられている。まさしくその通り、これは希望の物語である。
この作品に対して私は冷静ではない。本作を原作として作られた映画『ショーシャンクの空に』は私の生涯ベスト5に入るほどの名作だからだ。静謐なトーンでじんわりと染み入るように進む物語に私は引き込まれ、そして最後の眩しいばかりの再会のシーンにこの世の黄金を見るような気になったからだ。本作でレッドが仮釈放され、アンディーの跡を追う一部始終は、人生の大半を刑務所で過ごした人たちが身体に染み付いた刑務所の厳格な生活リズムという哀しい習性とそれを逆に懐かしむ危うさに満ちていて、思わずレッドの平静を願わずにはいられない。そして希望溢るるラスト5行のレッドの祈りにも似た希望は映画のラストシーンとはまた違った余韻を残す。その希望が叶うことを本作の副題が証明しているところがまた憎い。

さて次は「転落の夏」と添えられた表題作。元ナチス将校の老人と誰もが思い描くアメリカの好青年像を備えた少年の奇妙で異様な交流を描いた作品だ。
その副題が示すように一転して物語はダークサイドへ転調する。アメリカの善意を絵に描いたような少年が元ナチス将校の老人の過去を共有することで心に秘められていた殺人衝動を引き起こす話だ。
逢ってはいけない2人が逢ってしまったことで転落していく、実に奇妙な老人と少年の交流を描いた作品はキングしか描けない話となった。よくもまあこんな話を思いつくものだ。

「刑務所のリタ・ヘイワース」は28年もの長きに亘って冤罪で自由を奪われた男が自由を勝ち取る物語。一方「ゴールデンボーイ」は30年近く逃亡生活を続けてきた老人が最後に自由を奪われ、自決する物語。彼らが重ねた歳月は苦しみの日々だったが、その結末は見事に相反するものとなった。前者は自由への夢を見続けたが、後者は自分の行った陰惨な所業ゆえに悪夢を見続けた。

次の後編はあの名作「スタンド・バイ・ミー」が控えている。キングが綴った四季折々の物語。全て読み終わった時に心に募るのはその名の通り恐怖なのか。それとも感動なのか。その答えはもうすぐ見つかることだろう。

No.1 10点 ∠渉
(2014/01/26 14:10登録)
一つの希望を掴むには、数多の絶望を知って、時には己の運命を呪い、時に後悔し、また時には傷を負う。それでもなお「希望ってのはいいものだ」と言うデュフレーン。「がんばって生きるか、がんばって死ぬかだ。」はこの物語の全てを表していました。そんな静かな余韻と清しさを感じながら『刑務所のリタ・ヘイワース』を読み終え、なんか少しポカポカした感じで次の『ゴールデンボーイ』を読んで、希望ってなんだっけ?といきなり突き落とされました。こうなってしまえば希望もへったくれもありません。そしてそれはあまりにも真に迫っている。ここまで情けも救いもない人物を書けるのは日本人にいるのかはわかりませんが、やはりアメリカですね。スティーヴン・キング とはこの作品のことだと僕は思いました。しかしながら、つくづく、生きるって恐い。

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