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ミステリの祭典

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死への落下

作家 ヘンリー・ウエイド
出版日1995年09月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2020/08/19 04:20登録)
(ネタバレなし)
 1952年2月の英国。入念に準備を進めて自分の持ち馬に賭けながら、レースで大敗を喫した40歳の馬主チャールズ・ラスサン大尉。破産寸前の苦境に陥った彼に支援の手を差し伸べたのは、8歳年上の未亡人で富豪のケイト・ウェイドールドだった。ケイトの持ち馬の競馬監督の職を得たチャールズは、やがて彼女と愛し合うようになって結婚。チャールズはケイトの大邸宅の主人となる。だがある夜、その邸宅で惨劇が……。

 1955年の英国作品。
 その惨事は事故だったのか? 殺人だったのか? の見解を巡って、警察内部でも意見が対立。適宜な客観的叙述を活用して、読者の興味を煽る作劇の狙いどころは、なかなか面白い。
 とはいえそれはつまり、殺人? という前提が、とにもかくにも作中でなかなか確立・公認されないわけで、その分、物語はやや地味。
 だから、(キャラクターの書き分けが達者なので救われてはいるが)中盤はちょっとだけ退屈さを感じないでもない。

 むしろ、本作の場合は「事故か? 殺人か?(あるいは自殺か?)」わからないという謎の提示を前提に、どうやって最後のサプライズにもっていくのかという作者の思惑の方がスリリングで、それゆえに読み手のこちらとしては、後半~ラストの展開をあれこれ想像するのが楽しかった。もちろん最後の着地点については、ここでは書かないけれど。

 最後まで読み終えて、そこでまたいろいろ言いたいことはあるが、それなりに楽しめた。前述の読み手側の想いにもまたからむが、この作劇フォーマットをベースに、さらにもうひとつふたつひねったものも構想してみたい思いもふくらんでいく(それもまた、すでにもうどっかにあるかもしれないけれど)。
 
 創元の旧クライム・クラブあたりに収録されていたら、結構似合うような感じの作風である。
(そーいえば、実際に旧クライム・クラブの一冊だった同じ作者の『リトモア少年誘拐』はどんな出来なんだろう? そのうち読んでみることにしよう。)

No.2 6点 nukkam
(2014/08/28 19:08登録)
(ネタバレなしです) ウェイド後期の作品である本書(1955年発表)は、シリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。本格派ではありますが大勢の容疑者から犯人を絞り込むオーソドックスなタイプでなく、ある有力容疑者は果たして犯人なのかどうかが謎の中心になっています。サスペンスには乏しいし、終盤になると数字が沢山出てきてちょっと頭が痛くなりますが、それでも意外とテンポよく読める作品でした。登場人物の心理描写はそれほど細かくはないのですが、ちゃんとキャラクター分けができているところにウェイドらしい手堅さが発揮されています。意味深な最後の一行は賛否が分かれるかもしれません。

No.1 4点 kanamori
(2010/06/19 16:43登録)
ミステリ・ボックス(現代教養文庫)から地味に出たウェイドの最後期の作品。
年上の富豪女と結婚した男の視点で、その妻の不審な転落死の捜査が描かれていますが、初期作にも増して地味なミステリとなっています。英国の田舎の雰囲気など悪くはないですが、著者の本邦初紹介がこの作品というのはちょっと不幸な気がします。

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