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ミステリの祭典

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天から降ってきた泥棒
泥棒ドートマンダー

作家 ドナルド・E・ウェストレイク
出版日1997年06月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2020/07/08 19:29登録)
(ネタバレなし)
 1985年のアメリカ作品。
 評者的には本当に久々の、ドートマンダー・シリーズ。正に、初期4作を読んでからウン十年ぶりの再会かもしれない(笑・汗)。

 導入部から中盤の展開、決着まで、ハイテンポな筋運びかつ、小技ジャブ風に連続する見せ場が並ぶ。
 とはいえドートマンダーものへの期待値はそれなりに高いので、よくわるくも予期していたレベルには応えてくれたが、それ以上はいかなかった、という思いもある(汗)。

 メイン(ゲスト)ヒロインが聖職者というのは、他にも『アフリカの女王』(原作はまだ未読)や、クィネルの『ヴァチカンからの暗殺者』とかあって、それぞれその設定を活かした作劇でよいんだけれど、今回も(ちょっと薄味ながら)その文芸は機能していて悪くない。ただまあ、この辺もウェストレイクなら、これくらいのストーリーテリングのノルマはこなすよね、という思いもあって、褒めきるには微妙。
 あと、シリーズ最大のトラブルメーカーの彼が今回は結構おとなしいのが、ちょっと意外であった。
 超一流の腕前の錠前破りで新顔メンバーのウィルバー・ハウイーは『らんま1/2』の八宝斎みたいなエロ爺で、本作のお笑い要素の2割は持っていった感じ。
 ほかのキャラクター描写も全般的に快調で、いちばん笑えたギャグは仲間のひとりタイニー・バルチャーの尼さんが嫌いな事由。ああ……そりゃ同情したくなるよね、という過去の逸話であった(笑)。

 その年の新刊だったら、10点満点で8点、少なくとも7点はつけていただろうけれど、これまで読んだドートマンダー・シリーズのなかでは特化したものは少なく、こなれのよい佳作という手応えである。まあそれだけ本シリーズへの期待値は高いのだということで。

No.2 6点
(2020/03/13 10:36登録)
 裏の食品卸業者チェブコフから、マンハッタン南西部の倉庫に最近入荷したばかりのロシア産キャヴィアを盗み出す依頼を受けた不運な泥棒ジョン・アーチボルド・ドートマンダー。だが屋上のドアを開けるや否や警報器が鳴り響き、通りからはパトカーのサイレンが聞こえてくる。
 逃げようとした相棒オハラは路上で逮捕され、非常階段からはフラッシュライトとピストルを持ってのぼってくる若い巡査の足音が響いてきた。ドートマンダーは屋上から屋上へと飛び移り、外壁にへばりついて警官をやりすごそうとするが、手を滑らせそのまま眼下にある〈聖フィロメナ無言修道院〉の屋根樋の中に転がり落ちてしまう。彼はそのまま梯子に乗った修道院長マザー・マリア・フォーシブルに引きずりおろされ、尼さんたちの群れに迎えられるのだった。
 マザーは足をくじいたドートマンダーを警察に引き渡すかわりに、取引を持ちかけてきた。誘拐された二十三歳の修道女、〈シスター・マリア・グレイス〉ことエレイン・リッターを救出してほしいのだという。家出して信仰の道に入った彼女はすぐ父親に連れ戻され、ミッドタウンの超高層ビル上のペントハウスに監禁されているのだ。七十六階建てのビルには銃を持った警備員たちがあちこちにいて、エレインのいる最上階には一台のエレベーターでしか近づけない。大富豪の父フランクはペントハウスのみならず、各種高級テナントのはいったビルディング全体を所有しているのだ。
 ついでに貴重品を盗んでひと儲けしようと考えたドートマンダーは、それを餌に仲間を集め、厳重な警備を誇るビルに侵入する。だが思わぬハプニングの連続に加え手前の七十五階には、南米の独裁者ポソスに報復するためフランクが雇った、六十人あまりの傭兵たちが隠れていたのだった・・・
 『逃げだした秘宝』(1983)に続く泥棒ドートマンダー・シリーズ第6作(日本語番刊行順はその逆)。1985年発表。日本では角川文庫から順次刊行されていましたが、長篇第四作『悪党たちのジャムセッション』を最後に一時中断し、本書の十四年ぶりの発売をきっかけに早川のミステリアス・プレス文庫で再開しました。版元が転々とする経緯はパーカーシリーズに似ています。
 ウェストレイクによれば本書はそのパーカー未完成作を、ドートマンダーものに書き直したもの。これは第一作目の『ホット・ロック』からそうで、あちらに向かないネタをこちらで転用という形で別シリーズに移し変えています。これを見てもそれだけパーカー物がキツいのだと分かるのですが。版元との契約では「三作に一作はドートマンダー」となっており、作者にとっては良い息抜きだった事でしょう。
 それもあってか筆致は軽快。腐れ縁のアンディ・ケルプや運転狂スタン・マーチ、獣人雪男タイニー・ヴァルチャーに加え、四十八年ぶりに刑務所からシャバに出てハイになっている錠前破りウィルバー・ハウイーが悪目立ちで笑わせ、口は悪いが情に厚いブルネットの美女J・C・テイラーがドートマンダー救出作戦に花を添えます。軽めのコメディ作品としては出色ですね。個人的には皿洗い機のギャグが笑わせました。 主人公があまりに不運なので、最後まで油断出来ないのもいいところ。このシリーズはだいぶ前に『ホット・ロック』を読んだきりですが、一作目に比べギャグ面はこなれ格段の進歩が見られます。とはいえハウダニットとしての面白みは少ないので、6点ちょうど。

No.1 7点 kanamori
(2011/03/05 18:17登録)
不運な泥棒ドートマンダー・シリーズの6作目。
今回は、ひょんなことから高層ビルの最上階に監禁された修道尼を救出するハメに。ついでに貴重品を盗もうと、仲間を集めビルに侵入するが、というストーリー。
例によってハプニングの連続で、ドートマンダーが次々と不運な窮地に陥るさまで笑わせてくれます。個性的なキャラの仲間の中では、錠前破りのハウイーが一番。3年の刑期で入獄中に脱獄を繰り返し、結局50年近く刑務所にいたというエピソードで爆笑。毎度のことのドタバタ・コメデイなのに飽きない。

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