さらば甘き口づけ シュグルー |
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作家 | ジェイムズ・クラムリー |
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出版日 | 1980年12月 |
平均点 | 9.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 10点 | あびびび | |
(2018/06/17 23:52登録) 感激したら、すぐに高得点をつける甘い読者ですが、これはおもしろく、考えさせられ、厭世的になり、人間の性を改めて確認するなど、物語に酔った。あくまでも自分自身の評価ではあるが、ハードボイルドナンバーワンだと思う。 酒を飲みながらこれを書いているので、10点満点。でも酔ってはいない(笑) |
No.2 | 9点 | tider-tiger | |
(2016/04/24 13:08登録) アル中作家トラハーンの捜索を依頼された私立探偵スルー(空さんによるとシュグルーが正解のようです)は、トラハーンをみつけた酒場で、今度は酒場の女主人から少女時代に行方不明になった彼女の娘ベティ・スー・フラワーズの捜索を依頼されます。ベティの過去にはさまざまな哀しみがあって……みたいな話です。 トラハーンはとある酒場ですぐにみつかります。この酒場でちょっとしたドタバタがあるんですが、これがもう面白くて。 「オーニィの奴どうなった?」 「足の指を二本吹っ飛ばした」 「重傷か、軽傷か?」 「中くらいだな」 「そんならどうってことはねえや」 こういう感じの騒動です。傑作の予感。 続いて、行方不明になったベティに演劇を教えていた先生のところにて。この先生はベティの名前(ベティ・スー・フラワーズ)について無粋だのあの名前は捨てた方が良かったなどと述べたてます。 「ぼくはこの名前は嫌いじゃないです」と、スルー。 カチッとはまるものがありました。ああ、自分はこの男(スルー)が好きだなと感じました。 この後はいまいち締りのないプロットでロードムービーみたいな様相を呈すかと思えば、いきなりエルロイばりのダークな展開もあったりして、どうにも腰が落ち着きません。そして、ラストへと向かいます。納豆のように糸引くラストで、これがまた、たまらないのです。 理由はよくわからないけどとにかく大好きな作品です。空さんが他の作品の書評で言及されていたように場面と文体で読ませる作家だと思います。チャンドラーの劣化コピーみたいに言われることもあるようですが、この作品に限って言えば、私は一番好きなチャンドラー作品よりも好きです。 スルーの弱さ、格好悪さ、そして、優しさが好きなのかもしれません。 ステイシーや酒場の女主人ロージー、娘のベティ、ロージーを守るために敵の腎臓にかぶりつくファイアボールが好きなのかもしれません。 悪酔いしそうな当を得ない書評ですみません。 |
No.1 | 8点 | 空 | |
(2011/04/22 22:15登録) 主人公私立探偵の名前スルーは『明日なき二人』の主役の一方とはカタカナではどうしたって別人としか思えないので、英語のWIKIPEDIAを見てみたら、C.W.Sughrue となっていました。なるほど、eightの発音ですか。 邦題はむしろ『さらば愛しき人よ』を思わせますが、原題、そして内容はやはり『長いお別れ』に近い作品で、実際第12章にはこの言葉も出てきます。というより、チャンドラー自身初期から後期に向かうにつれて、よりウェットになってきますが、それをさらに徹底して、もうべたべたにしてしまったような雰囲気です。 グリーンの『ヒューマン・ファクター』に出てくる犬が印象的だと書いたばかりですが、犬の存在感に関する限りは本作の酔いどれブルドック、ファイアーボールの方がはるかに上。なにしろ登場人物表にまで載っているほどです。 派手なアクションがあって事件が一応決着を見た後、さらに70ページ以上も残っています。この後どうなるんだろうと思っていたら、全然ミステリではない話になって、それでもおもしろく読んでいたのですが、最後にショックが待ち構えていました。この動機はもちろん、方法もミステリの範疇を完全に逸脱してしまっています。本国でクラムリーが純文学扱いされているというのも納得のいく、胸にこたえる結末です。 |