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ミステリの祭典

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死と空と

作家 アンドリュウ・ガーヴ
出版日1959年01月
平均点7.25点
書評数4人

No.4 8点 クリスティ再読
(2024/04/24 09:59登録)
悪女、冤罪、沼沢地帯での逃亡劇、ヨット、死刑回避のための奮闘...実に「ガーヴ幕の内(フルコースと言いたいんだが...)」といった献立の作品。というか、キャリア的にはわりと初期の作品になるわけだから、キャリア全体から顧みたら「ガーヴ、覚醒」といった位置にあるといってもいいんじゃないかな。

でもポケミス裏表紙「抜きさしならぬ窮地に追いつめられた男と、愛するその男を救うために身も心も投げ出していとわぬ女とは、かくて、警察の追及に捨て身の挑戦を企てる!」の紹介だと、皆さんおっしゃるような「ガーヴ流幻の女」とミスリードされてしまう(苦笑)。これ不当な話だとも感じる。さらに突っ込めば設定の類似性が高いのは「黒い天使」だ。

まあ最後の決め手に気がつかないのは、小説として中盤の逃亡劇にリアリティと迫力があるためだから、これはガーヴの大衆作家としての力量の証明になって悪いことではない。でもリアルな裁判だったら気づくんじゃない? 確かにウールリッチほどではないけども、ガーヴにだってちゃんと「魔法」はある。

自分がやりたいことを素直に出せた作品になると感じる。そういう熱気が多少ある欠点も全部カバーできているのでは。ガーヴが自分の「スタンダード」を確立した記念碑だと思う。

No.3 8点 人並由真
(2023/08/03 16:20登録)
(ネタバレなし)
 時は(たぶん)1950年代のロンドン。40歳の元植民省役人チャールズ・ヒラリイは、かつて若い頃に理想に燃えてカリブ海の赴任地に赴いた。だが当初は夫に協力的で同地にも同道した元モデルの美人妻ルイーズは、現地の不衛生さと文化の低さになじめず身勝手なわがままを行ない、結局ルイーズのそんな態度はチャールズの失職に繋がった。現在はルイーズと別居し、農林技師として生計を立てるチャールズだが、そんな彼には、カリブ海駐留時に取材を受ける縁で出会った美人テレビレポーター、キャスリン・フォレスターという29歳の恋人がいた。完全に夫婦間の互いの愛情が失われ、一方でキャスリンと再婚したいチャールズはルイーズに離婚を求めるが、悪女ルイーズはただ夫へのいやがらせのために申し出を拒否していた。だがそんな矢先にルイーズが何ものかに殺害され、その殺人の容疑が、動機と疑惑の主であるチャールズにふりかかった。

 1953年の英国作品。
 早川の「世界ミステリ全集」の、ガーヴ作品『ヒルダ』収録巻の挟み込み月報で、当時まだ若い瀬戸川猛資がガーヴの総評を行なった際に「アイリッシュの『幻の女』をガーヴが書けばこうなる」と、本作に関してのたまっていた記憶がある。評者など、少年時代にその瀬戸川文を読んで以来、本作に抱く印象はず~っと<この作品は、ガーヴ版の『幻の女』らしい>なのだった。

 で、なるほど、作品の存在を知ってから数十年目にして初読した中身の歯応えはまんま先人の言うとおりである。
 ただし、それはあくまで「殺された悪妻」「窮地に陥る主人公」「主人公を救おうとする恋人の奔走」などの共通項を並べてトポロジー風に見たからで、実際の食感は前半の裁判ドラマの厚み、続くショッキングな大事故の勃発から、第二部クライマックスの過酷な自然界の中での冒険行、そして……とかなり中身が違う。まあそこらが正に、ガーヴ流、なのだが。
 第三部は紙幅がギリギリまで少なくなっていくなかで、ハッピーエンドになるには違いなかろうか、一体どう決着つけるのだ? というテンションの高め方が半端ない。回収される伏線は実はかなり明快な形で張られていたが、第二部の肉厚の描写に幻惑されて失念していた。

 それで、ある意味ではブロークンな、ミステリの定型的な作法から外れたクロージングとなるのだが、これが一方で、うーむ、と良い意味で読者を唸らせる印象的な決着である。評者なんか、まだそれなりにキレイな時期の、西村寿行の某長編の幕引きを思い出した。
(ところでブロークン、といえば、このポケミス裏表紙のあらすじも、かなり破格だねえ。いや、それで戦略的に成功してるとは思うけれど。)

 訳者の福島正実は、作者のなかでも上位に来る力作と言っているが、正にその通りだろう。秀作でも傑作でもなく、力作、その修辞が当てはまる一作。

 で、これ、あの「火曜日の女」シリーズの第一弾として和製ドラマ化されたんだよな。キャスリン(に相応する日本人のヒロイン)役は浜美枝か。
 DVD化やCS放送などの発掘はいまだされてないはずだけど、なんとか観たいものである。

No.2 7点 ことは
(2019/08/29 00:40登録)
ガーヴは3部構成が多いけど、これも3部構成。
よくできたサスペンス。瀬戸川さんが「夜明けの睡魔」で「幻の女」より面白いと書いていたけど、まあ、それは言い過ぎにしても、持ち上げたくなる気持ちはわかる。これが絶版とは!
2部の脱走のスリリングさ、いい。古き良きイギリスの冒険小説のイメージですね。
ラストが、ささっと終わるのが、インパクトが薄くなってしまうかもしれないけど、でもこれはそれがはまっているように思う。
「ギャラウエイ事件」「メグストン計画」より好き。

No.1 6点 こう
(2008/10/13 01:02登録)
 身に覚えのない妻殺しの容疑で死刑の判決を下された夫とその献身的な愛人が主人公のサスペンスです。
 ガーブお得意の巻き込まれ型のストーリーで、ガーブ好きの自分としてはまあまあ楽しめましたがサスペンスとしては相変わらず甘い内容です。起承転結はしっかりしているのは他作品と同様ですし最後の部分も悪くないと思いますが同じテーマのアイリッシュの幻の女と比べるとミステリ的要素の薄さが目につき(特に犯人が不在である点)現代読者には物足りない作品かもしれません。良くも悪くもガーブらしい作品でした。

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