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ミステリの祭典

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ブレイクショットの軌跡

作家 逢坂冬馬
出版日2025年03月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 6点 パメル
(2025/10/14 18:30登録)
自動車工場で期間工として働く本田昴は、同僚がSUV車「ブレイクショット」の車体内部にボルトを落とすミスを目撃する。この1台の「ブレイクショット」を軸に、物語は8つの異なるエピソードへ散り、やがて複雑に交差していく。
タイトルのブレイクショットは、本作に登場する架空の車名であるが、ビリヤード用語のゲーム開始時の最初の一打でボールが散らばるように、物語が多数のエピソードに広がる構成をも暗示している。マネーゲーム、特殊詐欺、SNS、労働問題、LGBTQ、貧困、格差、アフリカ内戦など、現代社会が直面する様々な課題が描かれている。
この作品の最大な魅力は、バラバラに見えた物語が最後に見事に一つに収束する構成力。重いテーマを扱いながらも、この作品の根底に流れるのは絶望ではなく希望。最終的には救いを感じる結末で、困難な時代を生きる上での少しの勇気や温かい気持ちが残る。

No.2 7点 人並由真
(2025/09/01 19:25登録)
(ネタバレなし)
 一段組の本文ながら580ページ弱。
 リーダビリティは最強ながら、8つの物語の流れ(そのうち主要なものは2~3……いや4つかな)の錯綜が読みどころ、とは十全にわかっていながらも、その縦横無尽ぶりにカロリーを消費……と。
 美味い、栄養価の高さも感じる、肉も柔らかくて腹ごたえもある、しかしボリューム感のありすぎるステーキを、ほぼイッキに平らげるような作品であった(読了までに二日半かかった)。
 
 終盤のあるオチはまあこんな(中略)物語ならそうなるだろうな、的に、おおむね推察がついてはいたが、それでも、こちらの予想を上回るあざとい仕掛けで泣かされた。ああ、これでこそエンターテインメント、2020年代の大作小説だよね。

 長さというか、手にした瞬間のボリューム感に二の足を踏む人は多いんじゃないかと思うけれど、よくできた<長編三冊目>である。

No.1 7点 虫暮部
(2025/07/18 11:59登録)
 良い意味でなかなか計算高い “次の一手” ではないだろうか。デビュー作の軛から逃れ、ジャンル作家脱却を図っている。
 前二作のような冒険要素は少ないし、一直線にゴールを目指すあの潔さも無い。細切れにした物語が渾然一体となって語るのは、何が何と繫がっているのやら判らない世界の有様。しかしその雑味の多さこそが本作の味わい。多彩な価値観を器用に使い分け、どのエピソードもリーダビリティが破格。うっかり一気読みしてしまったよ。えっ、架空の車種なんだ……。

 ところで無神経だと謗られる覚悟で言うが、プロローグに出て来るラップ、そんなにひどいか? 極論暴論を述べる歌詞なんて良くあるし、個人の表現でそこまで全方位に気を遣わなきゃ駄目かなぁ? 本作中最大の違和感である。

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