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ミステリの祭典

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ハリー・ポッターと炎のゴブレット
ハリー・ポッター

作家 J・K・ローリング
出版日2001年07月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 7点 Tetchy
(2025/05/11 01:31登録)
今回は三大魔法学校対抗試合がメイン。ホグワーツの他にもダームストラングとボーバトンなる魔法学校が存在しているのが今回で明らかにされ、それら3校対抗で代表選手を選び、3つの課題をクリアして優勝杯を競い合うというもの。冒頭のクイディッチ・ワールドカップが行われる事自体、魔法学校というものが世界中にあることが予想されたが、これは本当に予想外だった。

それでその3つの課題というものが、ドラゴンの守る金の卵を奪うこと、水中人から自分の一番大切な人を救うこと、そして迷路を通り抜け、優勝杯を手にすること。
正直、最初の課題が一番難しいと思った。心理描写も他の2つの課題に比べて緻密だし、臨場感溢れる風景描写も壮大な感じがした。その後の課題の淡白な処理の仕方を見るとこの課題を最後に持ってきた方が物語も盛り上がったのではないかと思う。

そしてとうとう「例のあのお方」の登場である。早くもハリーとの対決が繰り広げられるが正直、前哨戦といったところ。しかしまだ14歳のハリーに気圧されるようではヴォルデモートもたいしたことがないなぁと思った。

勿体無いのは3校それぞれの代表選手として選ばれたキャラクターにさほど魅力がないこと。セドリックは悲運の最期を迎えるのに、その人間性を深く掘り下げていないからそれほど喪失感が得られなかった。

良くも悪くもエンタテインメント性が濃く、前回までに見られた知的好奇心をくすぐるミステリ的手法はなりを潜めているかのようだ。
それはクラウチの真相やムーディの正体の暴露シーンなどをとっても、知的ゲームというよりは通俗小説のあざとい演出にしか思えなかった。
最後に明かされるリータ・スキーターのスクープ取得の謎はなかなかだったが、文中にはっきりと布石が配されているようには思えなかった。
他にもなぜクラムが3つ目の課題のときにセドリックに魔法を仕掛けて倒そうとしたのかなど細かい事件の詳細が語られなかった理由が棚上げにされた。が他にもこのようなストーリー、設定が見受けられたので今後は気をつけてほしいと思う(次作以降からの布石なのかもしれないが)。

ただ今回改善されたのは3巻までに見られた主人公ハリーが困難に打ち勝つ時の御都合主義に変化が見られたこと。
例えば1巻での闘いのときに組み分け帽子から剣が現れたり、不死鳥が現れたり、更には時間を遡る時計が現れたり、シリウスからファイヤーボルトがプレゼントされたりとハリーを身贔屓するような設定があり、正直、納得行かないところがあった。
今回はそれを逆手に取って物語の仕掛けに上手く融合させているのがよかった。
ハリーが三大魔法学校対抗試合の代表選手に選ばれた事、ムーディがハリーに第1の課題をクリアするヒントを与えた事、ドビーが鰓昆布をハリーに与えた事、ルード・バグマンがやたらとハリーを助けたがる事、これら今までハリーに対する特権のような書かれ方がされているのみだったのが、きちんと理由があったことに感心した。恐らく作者へのファンレターにもこの件が書かれており、作者なりに改善したのではないだろうか?

今回はダンブルドアが魔法省大臣のファッジと決裂したり、シリウスとスネイプが共同戦線を張ったり、シリーズの大きなターニング・ポイントとなる作品だろう。いよいよヴォルデモートとの全面対決が始まりそうな感じである。
次作で気になるのは、ヴォルデモートとの全面対決の準備期間ならばどのように魔法学校生活と対決の準備の模様を書くかである。頑ななまでに当初の設定を今後も持っていく作者の手腕が楽しみだ。

No.1 9点 クリスティ再読
(2025/05/03 16:50登録)
さすがに予約まではしなかったが、出版すぐに平積みを購入して読んだ。ハリポタ第4作というわけで今までと違い上下二巻、2冊セット販売。それでも飛ぶように売れていた。当時も一気読み、今回も事実上一気読み。

話が長くなったけども、構成に緩みがないのが凄いあたり。いろいろと前振りをしながら、たとえば三大魔法学校対抗試合の正式発表の、わざと腰を折る格好で新任のマッドアイ・ムーディの不気味な姿を紹介するとか、カーかいなという技巧を使っていたりもする。さらにはウィーズリー一家で唯一あまり好意的に描かれないパーシーをうまく使って、クラウチの挙動を印象付けるとか、小説技巧として感心する読みどころが多い。

で、本作といえばシリーズ中一番うまいミスディレクションを絡めた大トリック。某チートグッズの性質を突いたきわめて印象的なもの。ミステリファンならこれを読んでびっくりすること請け合い。過去作での魔法薬材料盗難事件をひっかけたミスディレクションもあるし、シリーズ作品での細かい過去でさえミスディレクションに使ってやろうという仕掛けの妙味が楽しめる。

それだけではなく、本作がシリーズの中での屈曲点に当たることもしっかり意識させる。それまでの3作では「子どもたちの冒険」のカラーが強く出ていたが、本作からはこのシリーズのテーマが「戦後処理」であることが強調されてくる。市民を2つに引き裂く「市民戦争」の後で対立が燻りつつも抑え込まれている世界。そこで「過去の亡霊」が復活して対立が再燃したときに、社会統合は再度可能なのか?という大テーマが扱われることが示唆されてくる。

いや子供向けじゃないな(苦笑)たとえばサラザール・スリザリンの名が、ポルトガルの独裁者サラザールから取られている話もあるわけだ。次の巻からは事実上「内戦」と呼んでいいレベルで話が進行していくわけで、本作はそのプロローグに当たる。

(あと、本作でハーマイオニーが「屋敷しもべ妖精解放戦線」と嘲られるほどの wokeっぷりを披露するあたり、後年のエマ・ワトソンとの対立を予告していたりするなあ...「みんなは、魔法使いとまったく同じように、不幸になる権利があるの!」まさに迷惑でしかない)

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