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ミステリの祭典

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仮面よ、さらば
墨野隴人シリーズ

作家 高木彬光
出版日1988年05月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 7点 クリスティ再読
(2022/05/01 21:04登録)
さて墨野隴人シリーズ完結作。何を書いてもバレになる小説なので、書きづらいったらありゃしない。けども、作者の意図とは少し違うかもしれないけども、最終盤で畳みかけるような「非情」ななりゆきに、意外なほどの興趣を感じる。いやいや、犯人が誰かも墨野の正体も、初読でも明白に見当がつくのが普通? ましてや再読「意外な真相」でも何でもないんだけども。

だから語り手の「陽気な未亡人」村田和子が困惑するさまが、それ自体、不条理状況なのである。和子をこう追い込む墨野の冷淡さにもしっかりとした理由があり、それがシリーズキャラクターとしての「最後の挨拶」につながっていく。そこに立ち上るのは、諦念めいた感慨なのだ。

やはりこれは、セカイに向けての「最後の挨拶」というべきものなのだろう。たとえば「帝国の死角」の最後でも、「世界が崩壊しても、またそこには日常が回帰する」といった感慨のようなものがあって、それを評者は好ましく感じていた。同様に本作がつけた墨野隴人シリーズの結末でもまさに「世界はガラクタの中に横たわる」。高木彬光の、この非情かつ優しいセカイ。


さようなら、世界夫人よ
ぼくらは君の泣き声と君の笑い声にはもう飽きた

(学園紛争という世相もちゃんと伏線として機能する! あと、本作の密室は「なぜ密室を作るのか?」という点について、オリジナリティのある why を提出しているようにも思う。how の部分でもキッチリとフェアだし)

No.2 5点 江守森江
(2010/05/23 08:41登録)
高木彬光は、神懸かり的名作から素人レベルの凡作まで同じ作家が書いたとは思えない位に作品レベルに落差がある。
このシリーズも第一作から、シリーズを貫く作者の狙いが透ける展開に終始しながら完結した。
しかし、脳梗塞に作者が倒れなければ、ミエミエな展開をミスリードにした神懸かり的で強烈な一撃を与えてくれたのではないか?との思いは尽きず、完結した喜びより惜しい気持ちの方が断然大きい。
さらには、この作品以降に書かれた作品を作者の黒歴史として抹消したいとすら思っている。

No.1 7点 vivi
(2008/05/22 01:14登録)
墨野隴人シリーズの第5弾にして、最終話。
タイトルどおり、墨野の仮面が剥がされる話です。

これを読んだ当時は、ミステリ初心者で、
ただただ素直にこのシリーズを楽しんでいたので、
この結末には、それこそ天地がひっくり返る思いがしました。

脳梗塞で倒れた高木氏が、必死の思いで完結させたシリーズです。
もっと健康で、気力の充実した時期に書けていたら、
もう少し違う読後感を得ることが出来たのだろうか・・・
しかし、ともかくも完成して良かった。
それだけで、作者に感謝の念で一杯です。

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