| ヘレン・ヴァードンの告白 ソーンダイク博士 |
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| 作家 | R・オースティン・フリーマン |
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| 出版日 | 2024年11月 |
| 平均点 | 6.67点 |
| 書評数 | 3人 |
| No.3 | 7点 | 弾十六 | |
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(2026/03/24 09:09登録) すごく面白い! でも翻訳がポカ太郎さんなので、残念。細かいミスはかなり多そう。大きなポカもある。というか、ちゃんと自分の文章読んでます? と心配したくなるところがあるんだよ。辻褄の合わない文章がところどころ。 まあ大体は合ってる。でも、この方の訳書は、今まで読んだやつもそうだったけど、細かく見るとはてながたくさん湧いて、そういうのは大抵やらかしてるんだよね… まあ、ここまで非難したので、翻訳の問題点は、後でじっくりやりますけど。まずは、大きなテーマから。 1923年の離婚法改正は、やっと夫の不貞を妻側の離婚事由に採用した。つまり、従前は(本書の出版時)、妻が不貞をしたら、夫はすぐ離婚提訴できたけど、妻は夫の不倫では離婚訴訟出来なかった。 英国の離婚は、二人が合意してても、離婚法廷の裁判官が納得しなきゃダメだった。そういう事情を解説しておいて欲しいなあ… 現代の日本の感覚なら、えっ、このシチュエーションでどうして、ああしないの?(一応ネタバレ回避)と思っちゃうだろう。不合理な行動と思われちゃうと、面白さ半減だよね… それから、インクエストの絶対神、検死官の権力も、この本では存分に示されてる。だけど、インクエストがそういう制度だと知ってれば、危機感も、もっと感じられるだろう。 検死官がインクエストをミスリードして、家族を毒殺した、という評決が出て、犯人呼ばわりされた人が自殺しちゃった、という悲劇すら実際に起こったことがある。 フリーマンの『フルード』も結婚による悲劇の物語だった。 それから女性の自立テーマもフリーマンは気にしていた。独り立ちしている女性芸術家が良く作品に登場する。そして、スピリチュアルなネタも時事ネタ。作中現在は1908年。第一次対戦後に爆発するスピリチュアル系の胚芽は、本当にこんな感じだったのかも。 まあもっと、繊細な翻訳だったらなあ… と思うけど、話自体の内容はこの日本語で読んでもわかる。めちゃくちゃ翻訳じゃないけど、ナニコレ?が沸く翻訳… 今日はとりあえずここまで。 (以下、2026-3-25追記) ちょっと拾ったら膨大になりそう。 p1% 読んでいた本は、ウィリアム・エドワード・ハートポール・レッキー(一八三八~一九〇三年。アイルランドの歴史家)の『十八世紀のイギリス史(全八巻)』でした。わたしが婚約したのはアン女王(一六六五~一七一四年。在位:一七〇二~〇七年)の時代です(The book was Lecky's "History of England in the Eighteenth Century," and the period on which I was engaged was that of Queen Anne.)◆訳注は翻訳書のまま。作中現在は後で1908年と判明するのに、この女性が「アン女王の時代に婚約した」と書いて平気なんだ。これだけ年代の豊富な訳註を付けてるのに… 以下試訳は全部ChatGPT無課金版「(前略)私が取り組んでいた時代は Queen Anne の治世の時期であった」 p2% 冷血で、恐喝まがいのことをするようなろくでなしに一生縛られている娘を見るよりも、貧しい娘を見ているほうがましだ(I would rather see the poor girl in her grave than know that she was chained for life to a cold-blooded, blackmailing scoundrel-)◆ in her graveが抜けただけ。 p3% 懐中電灯を持った捜索隊がチョークで描かれた穴の周りを歩き回っています(a search party, prowling with lantern around a chalk pit)◆ 試訳「探索隊が、ランタンを持って白亜採掘坑の周囲をうろついている」チャッピー解説chalk pit: 白亜(チョーク質石灰岩)の採掘坑。英国では崖状・穴状の場所が多く、自殺や事故の舞台になりやすい。 p3% むしろ寛容さこそ---そして、父はとくに過ちに対して寛容です---女の同情心に強く訴えかけるのです(whereas generosity-and my father was generous almost to a fault-makes the most powerful appeal to feminine sympathies)◆試訳「いっぽう寛大さ――そして私の父は欠点と言ってよいほど寛大であったのだが――は、女性の同情心に最も強力に訴えかけるものである」 p3% わたしはもう大人なのに、かつてそうしていたように父の膝の上に座ると、父の薄くなった灰色の髪の毛をなでました(I perched myself on his knee, as I often did, despite my rather excessive size, and passed my hand over his thin, grey hair.)◆ 試訳「私は、少々大きすぎる体にもかかわらず、いつものように父の膝の上に腰かけ、彼の薄くなった灰色の髪を手でなでた」 p3% 私の頭から髪の毛が伸びるとでも思ったのか?伸びたようには見えないだろう(Did you think my hair grew out of my cranium? But you won't see it long)◆ 試訳「私の髪が頭蓋骨から生えているとでも思っていたのかね? だが長くは見ていられんぞ」これから養毛剤でふさふさになるから、禿頭は見られなくなる、という趣旨。 明日は大事なのだけに絞るよ。 (以下、追記: 2026-3-26) p4% 石炭バケツ(coal-scattle)◆ 室内用の石炭入れのこと。「バケツ」のイメージで、ちょっとピンと来なかった。 p4% 書斎の電話が鳴ったので、父と事務所のジャクソンとの電話はすでに終わっていることがわかりました(The tinkling of the telephone bell in the study told me that my father had finished his talk with his managing clerk)◆ 試訳「書斎で電話のベルがチリンと鳴ったので、父が主任書記との話を終えたのだと私にわかった」 微妙な間違いだけど、翻訳者は家庭内の内線電話の仕組みをよくわかっていない。どこかの電話を置くと、他の電話が一瞬小さく鳴るんだよ。小説のどこにも書いてないけど、1908年だからスティック式でダイヤル無し。交換手を必ず通す仕組みだね。 p4% ジミーという愛称は、わたしの名前がジェマイマであるという、古代の作り話から考えられたものです(the pet name "Jimmy" had been evolved out of an ancient fiction that my name was Jemima)◆ 試訳「ジミーという愛称は、私の名前がジェマイマであるという昔からの作り話から生まれたものだった」 ここではpet nameを理解してるね。でもan ancient fiction を誤解してる。aiちゃんの解説 【昔からの作り話/古くからの虚構、家族内の冗談めかした言い伝えというニュアンス】 なお、この項目から無料チャッピーの使用上限が来たので、今日はClaude(無料版)で試しているよ。 p4% 「私のような三流の事務弁護士は、自分の気質に従うなら、必然的に一流の銅細工師になるべきだろうな。そうだろう?」 / 「お父さんは一流の事務弁護士よ」とわたしは答えました。("Now, here I am, a third-rate solicitor perforce, whereas, if I followed my bent, I should be a first-rate coppersmith. Shouldn't I?" / "Quite first-rate," I replied) ◆ 【試訳: 「見ろ、この私がいい例だ。やむを得ず三流の事務弁護士に甘んじているが、もし自分の望む道を歩めたなら、一流の銅細工師になっていたはずだ。そう思わないか?」 / 「きっと一流になれたでしょうね」と私は答えた。】 この原文の流れなら、翻訳者さんの解釈には絶対ならんよ… p4% わたしは詮索好きではありませんが、それでも、父が窮地に陥っていることにはうすうす気がついていました。そして、そのことにわたしを巻きこみたくないことにも。それにもかかわらず、わたしは別のやり方で父に迫りました(Not that I was inquisitive on the subject; but, in view of a resolution that was slowly forming in my mind, I should have liked to have some idea what his position really was. It seemed pretty plain, however, that he did not intend to take me into his confidence; notwithstanding which I decided in a tentative way to give him an opening.)◆ 試訳「詮索好きからではない。ただ、心の中でゆっくりと固まりつつある決意のことを思えば、父の置かれた状況が実際どのようなものなのか、せめておおよそでも知っておきたかったのだ。しかし、父が私を信頼して打ち明けるつもりはないらしいということは、かなりはっきりしているように思われた。それでも私は、とりあえず父が話しやすいよう水を向けてみることにした」 うん、翻訳者さんは全然読めて無いね… これ以降は無課金チャッピーに戻る。。 p5% そして、これも聞いた話だがー私は事実だと思っているが1彼のもともとの名前はレビーというらしい。そして、選ばれた人たち、すなわちエリートの一人だ(I have also heard-and I believe it is a fact-that his name was originally Levy, and that he is one of the Chosen)◆ 試訳「さらに私は――そしてそれは事実だと信じているのだが――彼の名前がもともとはレヴィであったこと、そして彼が選ばれた民の一人であることも聞いている」 Chosenて何?と聞いたらチャッピー解説【the Chosen は ユダヤ人(ユダヤ民族) 。より正確には:the Chosen (People) = 神に選ばれた民、という宗教的表現。旧約聖書の思想で、イスラエルの民が神に特別に選ばれた民族である、という観念に基づく。】うん。翻訳者は良く理解してないね。ユダヤ人ねたは、本書で沢山ばら撒かれてるのに。 p5% 「そう言えば、今夜はお店が遅くまで開いているのではなかったかな、ジミー?」 (And that reminds me, Jim; don't the shops keep open late to-night?")◆ チャッピーによると地域によって違うが週一で店が夜遅くまで空いてる日が決まっていたらしい。大抵は木曜日だったようだ。詳しく私は確認してない情報。『アンジェリーナ・フルード』p93参照。そっちでは土曜日が延長日だったように読める。 p5% 今夜、仕事の電話をかけなくちゃならないんだ。そして、いくつかものにしたい。だから、お祝いの食事にはしないでおこう(I've got to make a business call to-night, and I want to get some things, so we won't make it a ceremonious meal) ◆ 試訳「私は今夜、仕事上の訪問をしなくてはならないし、いくつか品物も手に入れたいので、あまり改まった食事にはしないことにしよう」 チャッピー解説【business call: 仕事上の訪問・商用の用件で人を訪ねること(電話ではなく実際に出向くニュアンス)】 p6% 五千ポンド(five thousand pounds) ◆ 英国消費者物価指数基準1908/2025(154.71倍)で£1=32966円。£5000=一億六千万円。 p7% ところで、あなたは二十一歳を過ぎていますよね?(By the way, I suppose you are over twenty-one?) ◆ 訳注が欲しいなあ。当時は21歳を超えれば、親の拒否で無効にはならないんだよ。 p8% 一九〇八年四月二日(the 2 of April, 1908) ◆ あっ。フリーマンの書き癖は、2ndとしないんだ… (数ページ後でも“2 April, 1908” )二十一日の方は "21st April, 1908" と書いている。まあ取り敢えず、これが冒頭の日付。木曜日である。前出の、この地域で店が夜遅くまで営業してるのは木曜日だと確定。 p11% わたしは抑えがたい衝動に駆られて父の首に飛びつくと、泣きじゃくりながらわたしの隠し事を父に打ち明けました(or how I controlled the almost irresistible impulse to fling myself on his neck and sob my secret into his ear)◆ ここが最も致命的な誤訳。翻訳者さんは、重大な告白?の後、何も起こらないのを変だと思わないんだね。試訳「どうやって、彼の首に身を投げかけて自分の秘密を彼の耳にすすり泣きながら打ち明けてしまいたいという、ほとんど抗いがたい衝動を抑えたのかも分からない」 以上。探せば、次から次にヘンテコが出てくる。キリがないのでもうやめるよ。 |
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| No.2 | 8点 | 人並由真 | |
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(2025/03/14 23:45登録) (ネタバレなし) 1908年4月の英国。「わたし」こと細工工芸師の卵で23歳の美人ヘレン・ヴァードンは、その夜、事務弁護士の父ウィリアム・ヘンリー・ヴァードンと初老の金貸業者ルイス・オトウェイの会談をたまたま耳にした。どうやら父ウィリアムは公的に信託された高額の金を自分の判断で勝手に友人に融資し、その事実をオトウェイに責められているらしい。公職の事務弁護士の横領は最大7年の懲役もありうると脅したオトウェイはウィリアムに、今回の件に目をつぶる代わりにヘレンとの婚姻を希望した。オトウェイの申し出を断り、逮捕もやむなしと思うウィリアムだが、ヘレンは父を救うためにオトウェイの希望を受ける覚悟を決めた。だがそれがヘレンをさらに予想外の事態へと追い込んでいく。 1922年の英国作品。ソーンダイクものの長編第5弾。 今さら新規に発掘されるくらいだから翻訳されずに残っていた後期作品のひとつかと思ったら、実際にはかなり初期の一本だった。ちょっと意外。 物語の全編が「わたし」ヘレンの一人称で綴られるが、父親の咎から始まるその動乱の青春ドラマの積み重ねが、全くもって、日本アニメーションの「世界名作劇場」路線の一年間にわたって放映された連続テレビアニメ番組みたい。 しかしソレが本当に、めっぽう面白かった(笑)。 いやソコにあるのは謎解きミステリの興趣というより、シリアル連続ドラマ的なオモシロさっていうのは百も承知しているが、剛速球の娯楽新聞小説みたいな求心力で、読者の鼻面を掴んで振り回すフリーマンの職人作家ぶり、それがスゴクいい。 なおロンドンに舞台を移してヘレンの世話を焼く下宿のおかみさんが、ソーンダイクのおなじみの助手ポルトンの実の姉さん。この辺のキャスティングの妙もちゃんとソーンダイクもののファンの視線も意識してるよん、という感じでよろしい。 で、最後の4~5分の1でようやっとミステリっぽくなり、いやソコからも作者は無器用にマジメに、20世紀序盤当時の未成熟なパズラーっぽいものにもってこうとしてるのは重々わかるのだが、しかしなんか一方で、あー、本当はもっともっと、そこまでのヘレンと周囲の登場人物たちの通常の日々のドラマの方を書きたかったんだけどな……まあ、編集部も読者もソーンダイクもののミステリ期待してるんだから、しゃーねーな……と言いたげなホンネが何となく覗くようで、そういった作風の揺らぎようも、またゆかしいことしきり(笑)。 いや実際、最後まで読むと終盤のくだりは必要十分な描写はこなしてる一方、どーにもパワー不足な感が強いんだよね。すんごくバランス悪いぞ、この作品はその辺が。 とはいえ全体の4分の3くらいまでは、前述のように、当時の読み物エンターテインメントとしてすんごく面白かった。たぶんこれまで読んだソーンダイクものの長編の中では『ポッターマック氏』に次いで楽しめたと思う。 ちなみにこれが今年のSRの会のマイ・ベスト投票用に読んだ新刊の最後の一冊である。オーラスになかなか手応えのある一冊をしっかり楽しめて良かった(笑)。 (ま、これくらい「他の人の評価? 知らん。少なくともオレは存分に面白かった」というタイプの作品も、そーはそうそうないかもしれないのだけど。) |
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| No.1 | 5点 | nukkam | |
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(2024/12/16 08:46登録) (ネタバレなしです) 第一次世界大戦で軍医として活動したためか、1922年発表の本書は「もの言わぬ証人」(1914年)から久しぶりとなるソーンダイク博士シリーズ第5作の本格派推理小説で、待ち望んでいたファン読者も多かったでしょう。風詠社版で500ページを超す、かなりの力作です。父親の借金の肩代わりとして望まぬ男との結婚を決意するヘレン・ヴァードンの1人称形式の物語です。芯の強さを持っていて、運命に決然とした態度で臨む女性として描かれています。物語性豊かなのはいいのですが、ミステリーを期待する読者はミステリーらしさのない展開が長過ぎて冗長に感じるかもしれません。法医学探偵として有名なソーンダイクが本書では法律家的な立場であることが新鮮でした。もっとも最終章では科学的捜査に立脚した推理を披露しています。ただ捜査場面の描写がないまま法廷で証言しての一気の解決なので、完全に後出しの証拠提示ではありますけど。 |
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