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ミステリの祭典

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こころ

作家 夏目漱石
出版日1949年01月
平均点4.33点
書評数3人

No.3 4点 蟷螂の斧
(2024/05/25 14:39登録)
「文豪たちの怪しい宴」(鯨統一郎氏)にて本作がミステリーっぽく取り上げられています。それによれば、『巷では私と先生が○○関係との説があるようだが、本作は百合小説であり、更にクライム小説だ』ということです。この説はかなり無理があるので、新解釈と言うより著者の創作といって良いでしょう。創作自体は面白かったですよ。さて、本作をミステリーとして、どう読むか?。まあ、プロバビリティの犯罪と解釈することは可能だと思いますが、かなり苦しい解釈(笑)。あとは心理ミステリー。これも苦しいかな。Kがそんなことで死ぬのか?と多くの方が考えると思いますが、現実にはありますね。余談ですが、先生の奥さんの名が「静」。子供にその名をと提案したら却下されたことを思い出しました。吉田拓郎さんの隠れた名曲「静(花酔曲)」から採ったんですが・・・

No.2 2点 Tetchy
(2024/05/21 00:12登録)
九州の田舎から出てきた大学生が出遭った先生なる人物。彼は結局、私にとってどんな役割を果たしたのだろうか?

物事を常に達観しているかのように、あるいは諦観の体で常に振舞い、何事においても熱くならず、厭世家のように振舞うこの先生。
かたやまだ社会を知らぬ人生経験の薄い身である私が、彼の、どことなく掴み処がなく、常に世の中を斜めに見ているような視座、そして自らを人生の敗北者だと語るその姿勢に自分にない物を見出し、師事していったに違いない。
そしてその出逢いは彼にとって人生の糧になったのかどうか、最後の結末を読んで判断するに、どうも時間の浪費でしかなかったのではないだろうかと思わざるを得ない。

先生という人物が、物語の約半分に渡って告白する手紙で語られる彼の半生を読むにつけ、正直とても人の尊敬を得られるような人格者ではないことが解ってくる。親の財産を叔父に騙し取られた過去を持ち、その怨みを忘れないとしながらも、実際には何も行動しない男。自らの嫉妬心ゆえに親友とも云える人物と同じ女性を好きになってしまい、終いには親友を出し抜いてその女性を手にし、自殺へと追い込んでしまう、そんな輩だ。

浄土真宗の坊さんの息子という非常にストイックな家庭に育ち、自らも全ての欲望を絶って、己の魂を高め、清める事を人生の目標としているような男、友人K。
しかし環境が彼の性格を変える。恐らく先生と同居した家に住んでいたお嬢さんは彼にとって出逢った事の無い魂の平安をもたらしたのだろう、彼は初めて女性を愛するようになる。
その心情を親友である先生のみに打ち明け、お嬢さんには告白をしない。それは己の教義とのせめぎ合いだったはずだ。そして間接的に親友がお嬢さんを貰うことを知らされる。
そして彼は命を絶つ。

その動機は一体なんだったのだろう?

友人の自分に対する裏切りを怨んでの事か、世を儚んでのことか、敗北者として潔く去る事を選んだのか、それは解らない。私は自らの信念を曲げてまで女性を愛そうとしたKが、その愛を得られないことを知ったことで、漠然とした不安が眼前に広がり、自らの信ずる道がそこで失われたから命を絶った、そう思う。

しかしその行為が生き残った人たちにもたらした、特に先生にもたらした効果は絶大で、彼はその後の人生を破棄してしまう。そして長年隠しておいた彼とKとの因縁を打ち明かしたとき、彼がこの世に別れを告げるその時になってしまった。

この明治という時代、人は斯くも純粋かつストイックだったのかと驚くばかりだ。
これに同調・共感することは私には出来ない。なぜならば出てくる登場人物全てが前向きではないからだ。

たったこれしきの事で何故命を絶つ?
そう問わずにはいられない。

登場人物全てがそれぞれと心を通い合わせることが出来ないまま物語は閉じられる。
先生と私、先生とその妻、先生と友人K、私と両親。
結局、本当の意味で分かち合える人間関係など気付けないものだ、人の心はその人のみしか解らないのだ、そんな風に突き放しているかのような小説だった。

No.1 7点 斎藤警部
(2024/05/18 21:24登録)
“ただ奥さんが睨めるような眼をお嬢さんに向けるのに気が付いただけでした。”

奥手なフレンチミステリ。 草食系ボワロー&ナルスジャック?の趣。 いっそ本作の恋愛模様にBL要素まで闊達に混入させ、ややこしくしたなら。。 なんて、そりゃないすよね。

数十年ぶりに再読してみると、往時は想いもしなかった真犯人(?)がくっきりと浮かび上がって来たではないか! だが、だとすると寧ろそれだからこそ残される謎。 このリドルストーリーは意外と歯応えがあるようだ。 また単純な構図でもなかろう。

初読時と変わらない、むしろ当時よりも繊細に強力に感じるのは、自分の心を上手に導けなかった時の、その暴走のおそろしさ。 心は病むよりも読め、ってが。 上手いこと言っちゃったな。

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