ガラスの橋 ロバート・アーサー自選傑作集 デ・ヒルシュ男爵もの、オリヴァー・ベインズ警部補もの ほか |
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作家 | ロバート・アーサー |
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出版日 | 2023年07月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 5点 | ことは | |
(2024/07/15 21:16登録) 有名短編「ガラスの橋」はどうもあわない。シンプルな謎にシンプルな解決で、面白みを感じなかった。 でも、本サイトで書評済みのおふたりの「イメージ」に対する言及で、評価しているポイントは理解できた。なるほど! 「なるほど」とは思ったけれど、私にはそこまで魅力的なイメージには感じられないのだよなぁ。本サイトで言及されている「本陣」、「斜め屋敷」ほうが、私には圧倒的に魅力的なイメージに感じられる。 他短編も、謎はシンプルで、キャラもあまりたっていないく、それほど面白くはなかった。比較的よかったのは下記作。 「マニング氏の金の木」は、途中から終盤の展開はよめるものの、他と違ってエモーショナル。 「住所変更」は、いかにもヒッチコック好み。スレッサーの良作に似た味わい。 「一つの足跡の冒険」は、ひねったホームズ・パロディでなかなか楽しい。 |
No.2 | 8点 | 人並由真 | |
(2023/08/30 05:08登録) (ネタバレなし) いまどき、こんな一冊が出るなんて! 扶桑社の発掘路線、ステキー! 小林さん、エライ!! というところで、各編の寸評。 ①マニング氏の金の木 ……良い意味で、フツーの「ヒッチコック劇場」の一編という感じ。 ②極悪と老嬢 ……これも「ヒッチコック劇場」っぽいが、こっちは「ちょっと変わった話だった、面白いけど」と視聴後に、視聴者から言われそうな内容。 ③真夜中の訪問者 ……実質、ショートショートというか……。オチに気を使い過ぎて、最後は、ああ、そう、という感慨を抱いて終わる。 ④天からの一撃 ……お子様向けの推理クイズだな。こんなのムリでしょ!? そう思って読むなら、それはそれで楽しいか。 ⑤ガラスの橋 ……久々に再読したが、やはり名作。犯行時のとんでもないビジュアルイメージが、(中略)ながら、どこか美しい。 ⑥住所変更 ……著名な、海外短編ミステリアンソロジーの、あの話を思い出した。これも「ヒッチコック劇場」系。 ⑦消えた乗客 ……主人公3人のキャラは良いが、不可能犯罪の短編ミステリとしては、いささかこなれの悪い出来。 ⑧非情な男 ……これも長めのショートショートというか、アメリカのミステリ落語かも。 ⑨一つの足跡の冒険 ……多重的かつ多様な仕掛けで、なかなか面白かった。真犯人の犯行時のイメージは、想像するとかなり凄まじいものがある。 ⑩三匹の盲(めしい)ネズミの謎 ……唯一のジュブナイル編だそうだが、サービス精神は最後まで旺盛で結構、楽しめる。レア切手マニアの富豪とのやりとりが楽しい。 実質7点。ただし翻訳紹介企画の素晴らしさに感動して1点オマケ。次はC・B・ギルフォード辺りの短編集とか出ないかな。 |
No.1 | 8点 | おっさん | |
(2023/07/18 19:20登録) 嬉しいな、アーサーの自選アンソロジー Mystery and More Mystery (1966) が、まるごと訳されるとは。ホント、長生きはするものだと、しみじみ思わされました。訳者(小林晋)と担当編集者(扶桑社ミステリー)には、ただただ感謝。 ちょっと前に、同じタッグによる、ミシェル・エルベ―ル&ウジェーヌ・ヴィル作『禁じられた館』を絶賛しているので、おっさん偏向してね? と勘操る向きもあるかな。でも、素直な気持ちです。 あの都筑道夫に、自作「天狗起し」の創作裏話を綴った、「死体を無事に消すまで」という、無類に面白いエッセイ(晶文社の同題の評論集(1973)に収録)があり、そのなかで紹介されているのを読んでから、ずっと心に刻まれていたタイトルなのです。 都筑氏曰く――「(……)自作の楽屋ばなしを書きませんか、といわれたとき、私は Mystery and More Mystery を思いだした。この本の末尾には、集録した短編のいくつかを例に、作家は推理小説のトリックをどういうふうに思いつくか、具体的に書いたエッセイがのっている。それが私には、たいへんおもしろかった」。 ね、読みたくなるでしょ? 収録内容は以下の通り。 著者序文 ①マニング氏の金の木 ②極悪と老嬢 ③真夜中の訪問者 ④天からの一撃 ⑤ガラスの橋 ⑥住所変更 ⑦消えた乗客 ⑧非情な男 ⑨一つの足跡の冒険 ⑩三匹の盲(めしい)ネズミの謎 本書収録作品について 森英俊・編著『世界ミステリ作家事典[本格派篇]』で、ロバート・アーサーは、50音順の作家配列のおかげで、いの一番に取り上げられています。 ただ、そこから、ショート・パズラーのエキスパート的作家、たとえばエドワード・D・ホックの先輩格のような存在をイメージしてしまうと、それはちょっと違うな、と。今回、本書を通読することで、認識を新たにしました。 2013年から14年にかけて、扶桑社ミステリーから、《予期せぬ結末》という、海外作家の個人短篇集のシリーズ(井上雅彦・編)が出ていました。 残念ながら、3冊(『予期せぬ結末1 ミッドナイト・ブルー』ジョン・コリア、『同2 トロイメライ』チャールズ・ボーモント、『同3 ハリウッドの恐怖 ロバート・ブロック』)で終了してしまいましたが、筆者はこれが大好きで、《異色作家短篇集》再び、という気分で愛読していました。 ロバート・アーサーも、基本、そっち側の作家だと思うのですよね。だから本書は、かりに『予期せぬ結末4 ガラスの橋』として出版されたとしても、まったく違和感のない内容になっています。 ただ、いわゆる“異色作家”たちが、謎解き型のミステリにほとんど関心を向けないか、手を染めても本来の実力を発揮できていないのに対し、アーサーは、その形式をよく理解し、加えて、狭義のミステリ・マニアを喜ばせるすべも体得している(非パズラーではありますが、ミステリ好きの老嬢が、ミステリの読書体験を武器に悪漢を出し抜く②「極悪と老嬢」などは、その典型)、それがこの人の最大の強みでしょう。 “雪の密室”からの女性消失を描いた、オールタイム・ベスト級の表題作⑤(本書未収録の「51番目の密室」と並ぶ、アーサーの代表作)を別格とすれば―― ①マニング氏の金の木、⑥住所変更、⑧非情な男 と、これが“私のベスト3”かな。余計なコメントは不要。“異色作家”たるアーサーの実力、とくと御覧じろ。 そして――バラエティに富んだ本書の興味を、倍増してくれるのが、くだんの、作者自身の手になる「本書収録作品について」です。 原書の Mystery and More Mystery が児童書として出版された(!)事情を訝しんでいたのですが、創作を志す若い芽を伸ばそうというアーサーの意図が汲みとれるようで、この裏話エッセイはとてもイイ。 「ガラスの橋」のファンタスティックなトリックは、作者の少年時代の、ふたつの別々な体験が結びついたものなんですね。「でも」と、雪国育ちの筆者のなかの、リアリストが囁きます。「アレとソレは等価じゃないよね」。「ん、何が言いたい?」。「つまりさ――アレでこうはならんやろ」。「(一瞬の沈黙ののち)なっとるやろがい!」。そう、理性が何と囁こうが、作品のクライマックスで現出する、あの鮮烈なイメージは、筆者のなかで終生、消えることは無いのです。『本陣殺人事件』がそうであるように、『斜め屋敷の犯罪』がそうであるように……。 本書が呼び水になって、ロバート・アーサーのさらなる紹介が続くことを、願ってやみません。 |