さえづちの眼 比嘉姉妹シリーズ(番外編含む) |
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作家 | 澤村伊智 |
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出版日 | 2023年03月 |
平均点 | 6.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 5点 | パメル | |
(2025/04/12 19:27登録) 人間の深層心理に迫るテーマ性が際立つ3編からなるホラー中編集。 「母と」様々な事情から親元を離れることになった少年少女を預かり、日常を取り戻させる活動を行うという男・鎌田の元に、不良少年の琢海が訪れるところから始まる。彼が鎌田との暮らしに居心地の良さを感じつつあった夏の晩、琢海は鎌田が正体不明の存在と対峙する様を目の当たりにする。怪異との攻防にその存在の正体を巡る謎解きの要素を密接に絡めた密度の濃い一編。 「あの日の光は今も」かつてセンセーショナルに報道された二人の少年がUFOを目撃した事件とその前後に起きた人間の死が時を経て異様な関連を帯びていく。昭和という時代が生み出したオカルトブームやタガの外れた事件を現代の地点から解体する手つきに妙がある。 「さえづちの眼」旧家に住み込みで働くことになった家政婦が目撃する怪異が手記のかたちで語られる前半と比嘉琴子が登場しその真相に迫る後半という作者の得意とする二部構成が効果的な作品。 三作とも「眼」を軸にした設定が物語全体に張り巡らされているのが特徴で、ホラーの要素を十全に活かすことで謎解きに独特の意外性を生む手腕が冴え渡っている。加えて、人間存在を射抜くシニカルで透徹した視線とそれでも人間を信じる覚悟のようなものの両者を行き来するアンビバレントな感覚が詰まっている。総じて、物理的な恐怖と心理的な不安を絡ませた作品集と言える。 |
No.2 | 7点 | HORNET | |
(2024/04/30 22:14登録) 個人的なことだが、ずいぶん久しぶりの比嘉姉妹シリーズ。中編3本がまとめられているが、1話目が真琴、2話目は辻村ゆかり&湯水、3話目は最強霊媒師の姉・琴子の話。ということでスピンオフ的な要素も感じられ、シリーズ愛読者には好評なのでは。 3話それぞれに意外な結末へと展開する仕掛けがあり、小粒ながら良作ぞろいの作品集であった。中でもやっぱり表題作が印象に残ったかな。 このあとにまた最新作が出ているらしいし、久しぶりに読者復帰をしようと思える一作だった。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2023/05/05 16:06登録) (ネタバレなし) 比嘉姉妹シリーズ中編集と銘打って、シリーズ世界内設定の3本の(広義の?)連作を収録。 ①問題児を預かって後見する市井の篤志家の住居、その周辺に怪異が……? の『母と』 ②地方の旅館を老母と経営する中年男性。その彼が過去に遭遇した、そして今も引きずる怪異とは? の『あの日の光は今も』 ③1960年代から語られる、都内の辺鄙な町での、あるお屋敷の……の表題作(眼には「まなこ」とルビ)。 どれも新本格ティストのモダンJホラーで面白かったが、①は、ああ、その手か、②は、うむ、ソウクルカ、③は古典の海外怪談風の前半から……と、大枠は違えないものの、それぞれの作品の顔を見せている。 なお②は、厳密には、比嘉姉妹は登場せず(これは書いてもいいだろう)、シリーズに慣れ親しんだ愛読者なら旧知の同じ世界観のキャラクターが登場、活躍する。なんか『汽車を見送る男』や『ドナデュの遺書』をメグレシリーズ、『大暗室』や『月と手袋』を明智小五郎シリーズとダイレクトに称して売るような感じだ。厳密には「シリーズ番外編」だよね? まあいいけど。 現在の作者には、比嘉姉妹(とその仲間? たち)のシリーズなら、怪異(謎)の提示と、その解決、決着までの推移を語る上で、中編という形式がいちばん合ってるかもしれない? |