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ミステリの祭典

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まだ出会っていないあなたへ

作家 柾木政宗
出版日2023年02月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 メルカトル
(2023/05/15 22:35登録)
孤独で、後悔ばかりで、将来が見えない。周りが皆敵に見えてしまい、誰も信用できない。自助が声高に叫ばれ、助けを求めることができない。
ーーでもきっと、あなたを見つけてくれる人がいる。

1.経験者採用面接での不合格者が自殺をしてしまった人事課長。
2.デビューしたものの2作目が出ずブラック企業で働く小説家。
3.SNSで「死にたい」と呟き続けるコンビニ店員。
4.取り立て先の子どもに好かれてしまったヤクザ者。
Amazon内容紹介より。

プロローグでまずは惹き込まれました。きっと期待できる作品に違いないとの予感がしました。四つのそれぞれ毛色の違うストーリーは取り立てて物珍しいものではありません。何時か何処かで読んだような気がする物語ばかりです。そして文章も決して上手いとは思えません。しかし、それぞれの登場人物が悩み苦しみ、人間の弱さや脆さ危うさをこれでもかと描き出しています。その意味で、ある種の群像劇と言えるでしょう。どこにでもいる、ヒーローでもヒロインでもない等身大の一人の人間として、当たり前の生活でありながら当たり前ではない物語を紡いています。

私は途中何度も何故わざわざ長編にしたのだろうかと疑問に思いました。これなら短編集で良かったのではないかと。しかし、それが大いなる間違いだと気づくのがあまりに遅かったのです。
第四章でえー!?となり、前に遡って読み返すことになろうとは思ってもいませんでしたよ。するとやはり・・・これ以上はネタバレになりそうなので控えましょう。

メフィスト賞受賞作でデビューし、本サイトでも散々こき下ろされた作者ですが、私は書評の最後に「この人は将来大成するかもしれませんね。それだけの力量を持った人だと思いますよ。」と書きましたが、もしかしたら本作がそれに当たるのかもなんて勝手に思ったりしています。いや、更なる傑作を期待しても良いんじゃないですかね。

No.1 8点 人並由真
(2023/04/10 08:05登録)
(ネタバレなし)
 それぞれの場で語られる、個々に切ない思いを宿した者たちの4つの物語。それは――。

 ……どこかで、いやあちこちで、かつて見たような既視感もたしかに生じるのだが、その上で「とても良かった」と強い感慨を抱く、ヒューマンドラマミステリの優秀作。

 6年前にデビュー作『NO推理、NO探偵?』を書いた作者がずいぶん遠いところに来てしまったなあ、と、ほぼリアルタイムで全作、付き合ってきた身としてはしみじみ。

 で、単品での本作をホメること自体は、まったく、やぶさかではないものの、こっちの方向で実績を積んでいく(あるいは新規の読者に反響が広がる)と、作者のディフォルトの「アイとユウ」&「朝比奈うさぎ」の両シリーズがポロっと忘れられそうで、ソレだけがすこぶる心配(笑・汗)。双方のシリーズもまたそのうち、ぜひとも新作が読みたいもんです。

(つーか、作者が<新境地>に乗り出して、その反動でうっちゃられていった、かねてよりの新本格系の名探偵キャラクターって、存外に多いからなあ……。同じ轍を踏まないように、願いたいモンである。)

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