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ミステリの祭典

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黒石 新宿鮫Ⅻ
新宿鮫シリーズ

作家 大沢在昌
出版日2022年11月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 7点 E-BANKER
(2024/01/06 15:43登録)
少し遅くなりましたが、2024年、新年明けましておめでとうございます。今年は元旦からまさかの事態がつぎつぎと・・・
画面から見ているだけで大変恐縮なのですが、被害に遭われた方の心中を察するといたたまれれない気持ちになってしまいます。
ですが、こういう時こそ、われわれは「己の本分」を全うすることがまずは大事と信じております。
ということで、新年一発目の作品は、ついにⅫ(12)まで進んだ「新宿鮫シリーズ」最新刊で、ということです。
単行本は2022年の発表。

~リーダーを決めずに活動する地下ネットワーク「金石」の幹部、高川が警視庁公安に保護を求めてきた。正体不明の幹部「徐福」が謎の殺人者「黒石」を使い、「金石」の支配を進めていると怯えていた。「金石」と闘ってきた新宿署生活安全課の刑事・鮫島は、公安の矢崎の依頼で高川と会う。その数日後に千葉県で「徐福」に反発した幹部と思しき男の頭を潰された遺体が発見された。過去10年間の「黒石」と類似した手口の未解決事件を検討した鮫島らは、知られざる大量殺人の可能性に戦慄した・・・。どこまでも不気味な異形の殺人者「黒石」と反抗する者への殺人指令を出し続ける「徐福」の秘匿されてきた犯罪と闘う鮫島。シリーズ最高の緊迫感!~

シリーズ12作目でこの面白さなら十分合格点、そういいたい気持ちはある。
本作は、前作(「暗約領域」)と深いつながりがあり、特に前作でもキーパーソンだった「新本ほのか」(またの名を「荒井真梨華」)は本作でもまた、事件のカギを握る存在として鮫島の前に現れることになる。
そして、何より本作最大の謎は、「異形の殺人者」=「黒石(ヘイシ)」とそれを操る「徐福」の正体、ということになる。殺人者に関しては、これまでもⅡの「毒猿」やⅥ「氷舞」での美しき殺人者など、謎に満ち魅力的なキャラクターが登場していた。
始まってすぐに「黒石」視点でのパートが少しずつ挟まっており、それを読み進むごと、読者もその不気味さを徐々に理解していく・・・そんな効果を狙ってのことなんだろう。(ただ、ちょっと書きすぎの感はあって、終盤はかえって「不気味さ」の興を削いでいたが)

事件は鮫島と新パートナーである矢崎、そして桃井の後任である阿坂課長、薮たちの捜査により、徐々に詳らかにされていき、「金石」の幹部である「八石」の正体が判明するとともに、ついには「徐福」と「黒石」の正体も姿を現していく・・・
ただ、徐々にページ数が少なくなっていくなかで、まだ対決シーンが始まっていないじゃないか!と思っていた矢先、突然に訪れたかの「ふたり」との遭遇、そして急展開ともいえる終幕・・・
いやいや、早仕舞いすぎでしょー
もう少し味わいたかったよー。鮫島と「徐福」そして「黒石」との対決。この辺りが、他の方の書評でも不満として見られるのかなとは思った。
まあでも、シリーズ第一作の発表が1991年だから、足掛け30年が経過。作品の世界では恐らく鮫島は10歳程度しか加齢していないように見えるけど、それでも40代半ばではあるだろう。
先に触れたⅡ「毒猿」ラストの名シーン。新宿御苑内での「毒猿」との戦慄の対決シーン。そのときは鮫島も30代前半。体力も気力も充実していた頃だろう。それを本作でも再現すること自体が無理筋なのかもしれない。
フィクションの世界だって加齢するのだ。それこそが30年も続いてきた本シリーズの強みであり、弱みなのかもしれない。
でも、本作では阿坂の口から鮫島のチーム力についての言及がある。いつもひとりで闘ってきた鮫島だったはずだが、本作では矢崎も薮も阿坂もそれぞれの「本分」で力を発揮する。
そうだ、40代も後半を迎えた(合ってる?)鮫島にとっては、「チーム」で闘うすべを痛感した本作だったのではないか?
いかんいかん。何だかフィクションかノンフィクションか分からないような書評になってしまった。
でもいいのだ。私も鮫島に習って、決して現実に目を背けないようにしたい。そう強く思った新年一発目となった。(何だかよく分からん書評ですが・・・)

No.2 6点 麝香福郎
(2023/10/20 21:52登録)
中国残留孤児の二世や三世たちによる巨大ネットワーク「金石」がメインの物語となっている。「八石」と呼ばれる八人が中心的な役割を務めているが、ネット上で情報交換が行われるため、顔や本名を知らないメンバーも存在する。
その中の一人が警察に保護を求めてきた。徐福と名乗るメンバーが金石を牛耳ろうとしているというのだ。
鮫島は若手刑事の矢崎とタッグを組んで、徐福と黒石の正体を突き止めようとするが、その間にも八石のメンバーが次々と血祭りに上げられていく。凶悪で強力な暗殺者という点では、毒猿を想起させるが、自分を正義のヒーローと思い込み、使命感で殺人を重ねていく黒石は今までにないタイプの敵役として強い印象を残す。
過去の作品と密接にリンクしているのもこのシリーズの特徴だが、本作は前々作と前作との結びつきがとりわけ強く、あらかじめこの二作を読んでおけば、より楽しめるだろう。

No.1 6点 文生
(2022/12/11 11:13登録)
シリーズ第12弾。一匹狼だった鮫島も遊撃隊的なポジションながらチームで捜査を行うようになり、ハードボイルドっぽさは後退しています。その代わり、自らをヒーローと称し、毒猿とは別の意味でやばい殺し屋・黒石がインパクト大。また、その黒石を背後で操る徐福は終盤まで正体を現さず、ミステリー的な興味を牽引していきます。それだけに、徐福自体は意外と小者だったのが残念です。十分に面白い作品ですが、終盤の展開が少々物足りなかったのでこの点数で。

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