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ミステリの祭典

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法治の獣

作家 春暮康一
出版日2022年04月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 虫暮部
(2022/11/17 12:11登録)
 表題作は、ややチマチマした印象が残った。
 一方、「方舟は荒野をわたる」のアイデアは驚異的。ゲル状のでかい “顔” が岩場をぐねぐね移動するイメージが強烈。いや、それは間違ったイメージなのだが、浮かんでしまったものはしょうがない。私が今こう考えているのも、体内の微生物の行動のせいだったらどうしよう。謎を解き明かす話、ではあるね。

No.1 8点 糸色女少
(2022/11/10 22:20登録)
知的好奇心に駆られた人類が、宇宙探査に乗り出した未来を舞台にした物語で、異なる知的生物との出会いの最前線で起きた出来事を描いた三つの中編からなっている。
それぞれの星で出会った生物は、クラゲかイソギンチャクのような姿をした発光生物や、ユニコーン型の動物、意志を持って移動する水塊と、とてもユニーク。だがそんな形態以上に驚異なのは、それぞれの生命が進化の末に獲得した知能や精神の在り方だ。
巻頭作「主観者」の主題は、身体発光を通して意思の疎通をしているらしい知的生命体とのファースト・コンタクト。表題作では知性を持たないにもかかわらずすべての行動が法理に則っている聖獣のような存在と人間の関りを、「方舟は荒野をわたる」では多様な生物からなる知的生命体との出会いを描く。
地球生命は微生物から軟体動物、昆虫、植物でさえも人類とどこかでつながっている。しかし異星生物は全く別の惑星環境のもと、地球生命とは異なる進化で、その状態にたどり着いた。水に覆われた星や自転周期が不安定な惑星など、彼らの住む星と彼らとの関係の設定も秀逸だ。
地球生物の常識とは大きくかけ離れた環境下にあっても、自己保存と種の発展という生命根本の合理性にかなった異種の知的生命体を前にして、人類はどう行動すべきか。時に失敗しながらも、知性と良識の限りを尽くして、最善であろうと努める宇宙探索の物語が清々しい。

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