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ミステリの祭典

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煉獄の時
矢吹駆シリーズ

作家 笠井潔
出版日2022年09月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 5点 nukkam
(2023/02/14 21:56登録)
(ネタバレなしです) 2008年から2010年の長きにかけて雑誌連載されながら単行本化されたのが2022年となった矢吹駆シリーズ第7作の本格派推理小説です。単行本化に10年以上かけたのは大幅な改訂と加筆があったためだそうです。序盤の展開が意外で、何と「盗まれた手紙」の謎解きをカケルが依頼されます。そしてセーヌ川に浮かぶ川船で発見された首無し死体事件が続きます。中盤でこれらの謎解きは中断されて作中時代が1939年の過去編へと移る展開は「哲学者の密室」(1992年)を連想しました。作中ではこの構成はエミール・ガボリオの「探偵ルコック」(1869年)以来の探偵小説の基本と説明されていますけど。この過去編では「バイバイ、エンジェル」(1979年)に登場したある人物を主人公にして、やはり首切り殺人事件が起こりますが謎解きよりも第二次世界大戦前、戦時中、そして戦後の闘争や革命や武力衝突に関するエピソード(直接的な戦闘描写はほとんどありませんけど)の占める比率が大きいです。哲学議論や思想議論が抑え目な分読み易いとは言え、謎解きに期待する読者には冗長に感じられるかもしれません。現代編に戻るとミステリーらしさも戻りますが非常にややこしい人間関係が紐解かれる謎解きなので私の凡庸な読解力には敷居が高かったです。それにしても同じように首切り殺人事件だった「バイバイ、エンジェル」が随所で回想されていますけど、本書の現代編の作中時代(1978年)からわずか2年半前の出来事だったという設定には驚きますね。出版年では約40年の開きがあるのに。

No.1 9点 じきる
(2022/10/14 15:49登録)
待望の矢吹駆シリーズ7作目。過去作の要素が随所に散りばめられており、このシリーズのファンには堪らない作品でしょう。第二部の過去編が大戦期の重厚な青春小説として非常に楽しめました。
ミステリ部分も、複雑に絡まった事件を解きほぐすカケルの現象学推理は健在で、細部までよく練られています。

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