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ミステリの祭典

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20億の針
宇宙生物「探偵」

作家 ハル・クレメント
出版日1963年08月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 虫暮部
(2023/09/30 12:51登録)
 基本設定で風呂敷を広げた割に、ちんまりした牧歌的な舞台に留まった気はする。
 でもそのおかげで、良い意味でジュヴナイル的ムードな島のボーイズ・ライフが展開されて楽しい。ボブ少年とハンターが普通にいい奴。消去法でちゃんと推理してていいね。
 視界に文字を投影するコミュニケーション法(VRみたい)にちょっとびっくりしたんだけど、この頃(1950年)から既に(SF界では)一般的なアイデアだったんだろうか。

 シンプルな原題『 Needle 』を意訳してるけど、20億は針じゃなくて藁だよね。いや、馬鹿にしてるわけじゃなくて、理屈に合っていなくても『20億の針』で確かにニュアンスは伝わるなぁと。

No.1 7点 人並由真
(2022/05/29 06:00登録)
(ネタバレなし)
 不定形のゼリー状の知的宇宙生物「捕り方(別名「探偵」)」が、同種の悪の宇宙生物「ホシ(犯人)」を追って太陽系に飛来。だが双方の乗るそれぞれの宇宙船は、ポリネシア諸島の海中で大破した。逃げおおせた「ホシ」を追う「探偵」は他の星の生物に寄生・共生する能力があり、海中の鮫に憑依したのち、タヒチ島周辺の15歳の少年ロバート(バブ)・キンネアドの肉体に入り込む。だが「探偵」がバブの精神と潤滑なコンタクトをとる前に、秀才バブは島を離れてマサチューセッツ州の名門高校の寮生となった。それから数ヶ月、バブの体の中で精神と生命体としてのコンディションをひそかに整え続けた「探偵」はタイミングを見て、宿り主のバブの精神と会話。これまでの事情を訴えて、バブとともにポリネシア諸島に帰還した。おそらく島の周辺では今も、誰か地球人の中に「ホシ」が潜んでいるのだ。そしてバブと「探偵」が探り当てた「ホシ」がひそかに憑依する容疑者の正体とは?

 1950年のアメリカ作品。
 昭和40年代から日本でも「犯人捜し(というかマンハントもの)」のSFミステリとして有名な作品で、同時に『ウルトラマン』さらには『寄生獣』そのほかの類作の元ネタである。1987年の映画『ヒドゥン』の原作もしくは原典でもあったか。
 今、新作映画『シン・ウルトラマン』がヒット公開中だから、ちょうどいい。

 100円の古書で井上勇の旧訳を購入。そのあとで21世紀に新訳が出てるのを知って、古い方は読みにくいかなーと思いつつおそるおそるページを開いたが、フツーに面白い。330ページ弱の本文を、3時間半で一気読みしてしまった。
(ちなみに旧訳では「タヒチ」が「タイチ」のカタカナ表記である。)

 原題は単に「NEEDLE」だが、タイトルの含意としては本文にあるとおり、万が一宇宙犯罪者「ホシ」の逃亡範囲が地球上に無制限に広がったら、当時の地球人口約20憶が宿り主としての「容疑者」候補になり、20憶の中から一本の針を探すような羽目に陥るというもの。
 とはいいつつ実際のストーリーではそこまで極端に話は広がらず、あくまでポリネシア諸島の一角を舞台にしたヒトケタ台の登場人物の中から「ホシ」の宿り主探しの物語が展開される。
 
 宇宙生物が地球人に寄生した場合の生態現象を読者に先に提示し、その条件に合う合わないで容疑者を絞り込んでいく筋立ては王道ながら、なかなかのテンションで楽しめる。主に容疑者となるのは、主人公の少年バブの友人たちで同世代~少し年上の若者たちだが、彼らのくっきりした描き分けも明確でよろしい(キャラクターとしてはそんなに個性的な面々でもないのだけれど)。
 この変格的なフーダニットの枠内で、作者の方にも、いかにもミステリファンの視線を意識したような仕掛けがあるのも得点要素。
 前半3分の1までのマサチューセッツ編のくだりも、「憑依した側の知性」と「憑依された側の知性」のやり取りなど、細部のリアリティを追求しようとした当時の作者なりの挑戦心が感じられ、なかなか面白い。
(まあのちのキングやクーンツあたりなら、この辺をもっともっとしつこく書いて、その上でさらにエンターテインメントに仕立てるような感じでもあるが。)

 さすがに原書刊行後70年も経った現在では、いろいろな意味で新古典SF、あるいはクラシックのSFミステリという感は逃れられないものの、50年代SFという過渡期の土壌を踏まえるならば、いま読んでも十分に楽しめる旧作だと思う。
(というか、本サイトでも今までレビューが無かったのが、かなり意外だ。)

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