home

ミステリの祭典

login
父を撃った12の銃弾

作家 ハンナ・ティンティ
出版日2021年02月
平均点7.33点
書評数3人

No.3 7点 ◇・・
(2023/08/08 19:38登録)
犯罪小説と恋愛・家族・青春小説の輝かしい融合。
各地を転々としてきたホーリーと娘のルーが、娘の亡き母親リリーが生まれ育った町に移り住む場面から始まり、二人に会おうとしない母方の祖母との関係にも触れて、過去へと向かう。ホーリーとリリーとの出会いと恋愛、ルーの誕生からの家族物語、ルーの成長と青春模様などが、ホーリーの体に刻まれた被弾の記録とともに情感豊かに捉えられる。鮮やかな風景の中に心情が詩的に投影され、ギャングたちの銃撃戦ですら、時に荘厳な響きをもち、胸を激しく打つ。

No.2 7点 びーじぇー
(2022/08/11 19:08登録)
十二歳の少女ルーは、海辺の町オリンパスで暮らし始めた。それまで父と二人で各地を転々としていたが、ルーの亡き母親リリーが生まれた土地に定住することにしたのだ。地元の学校に通いだしたルーは、さまざまな体験を通じて成長していく。一方、父の身体には多くの弾痕があった。その傷にまつわる出来事が現在の物語と交互に語られる。やがて母親の死の真相をはじめ、すべての謎が明らかになっていく。
訳ありの父子家庭で育った気の強い少女の物語は決して珍しくないが、そんな話の要約では伝えることのできない魅力にあふれている。特に若き父をめぐる十二の「銃弾」の章は、緊張感あふれた展開に終始しており、密度が濃い。銃弾を身体に浴びるという経験、つまり生死にかかわる事件は細部まで深く記憶に刻まれるものだ。そうした見せ場の描き方が鮮やかで、断章ごとにそれぞれが独立した短編のように切れ味を帯びている。ルーの日常をめぐる章とはあまりにも対比的だ。
こうした構成のとりかたが巧みである。悪さをする男たちの活劇、道行き、恋愛、復讐といった大衆娯楽もののさまざまな要素が満載でありながら、見事な語りのためか、洗練された文芸作品のごとき風格が全編に漂う。

No.1 8点 猫サーカス
(2021/10/23 18:26登録)
10代の少女とその父の、過去と現在を綴った作品。父ホーリーと2人で、米国各地を転々として暮らしていたルーは、亡き母の故郷に腰を落ち着けて住むことになった。父は定職に就き、彼女は地元の学校へ通うことに。家族にはルーの知らない過去があった。父の体に残る数々の銃撃の傷痕は何がもたらしたのか。母はどのように亡くなったのか。そんな過去の因縁は、決して消え去ったわけではなかった。ルーの成長を描く現在と、ホーリーが銃で撃たれた過去のエピソードが交互に語られる。ルーの物語は、いじめや恋愛を経て、やがて彼女の知らない母リリーへと向かう。ホーリーの物語は、無駄を省いたシンプルな犯罪小説として読ませる。こちらもまた、リリーとの出会いと死別へと進む。焦点となるリリーへの、父と娘それぞれの思いが響き合い、力強いラストへと着地する。物語を支えるのは雄大にして危険な自然と、印象深い登場人物たち。運命に流されず、何かをつかみ取ろうと抗う姿を描いた力強い小説だ。

3レコード表示中です 書評