魔術師 |
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作家 | 佐々木俊介 |
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出版日 | 2021年09月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 7点 | メルカトル | |
(2022/06/02 22:55登録) 神秘学に傾倒する伝説的実業家の住む洋館には、 独自の英才教育を受けて育った4人の子どもが暮らしていた。 当主の龍斎とその血族、奉公人たちの集う館に招待された聖は、 徐々にその異様な雰囲気に飲み込まれていき……。 読むほどに謎が深まる、再読必至の館ミステリ「魔術師」。 Amazon内容紹介より。 事件が起こるまでは、説明文がほとんどで少々退屈しました。やや長すぎますしね。しかし、一人目の犠牲者が出てからはテンポよく進み、楽しめました。所謂館ミステリです、描かれたのはそれ程前ではないのに随分古めかしい雰囲気を醸し出しています。たまに携帯電話とかのワードが出てくると、物語にそぐわない為あれっと思ったりしました。 事件の真相はミステリをある程度読んでいる読者であれば、おおよそ見当が付くと思います。私も絡繰りは推測通りでした。しかし本作はその外側に仕掛けがあり、誰もそこまでは辿り着けないのではないでしょうか。そして動機に関しても、私にとっては想像の斜め上を行くものでした。ただ、肝心な部分が説明されていないと感じたのが率直なところ。その為、どこか腑に落ちない印象が残ってしまったのはマイナスポイントではないかと思います。 それにしてもパラケルススとか錬金術、オートマタ、ホムンクルスなんかが出てくるとワクワクするのはミステリ読みのさがでしょうかねえ。 |
No.2 | 7点 | sophia | |
(2022/01/24 18:28登録) 舞台設定が麻耶雄嵩「夏と冬の奏鳴曲」に似ていますが、それとはまた違う狂気じみた作品です。真相は衝撃的でありますし、○○○○に基づいた見立てなどよく出来ている部分はありますが、何の根拠もない与太話を盲信してあれだけのことをするのかという釈然としない思いも残りました。「魔術師」「秘儀(アルカナ)」「神秘学」などというミステリアスな用語で装飾したり、手帳の文面におどろおどろしいフォントを用いたりして雰囲気を出そうとしているのは分かるのですけれども。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2021/12/08 15:02登録) (ネタバレなし) 平成24年2月。「私」こと大学一年生の光田聖(みつだ さとし)は、面識のない相手から招待状を受け取る。それは大企業グループ「青茅(あおち)産業」の総帥と同名の青茅伊久雄なる人物からで、実は聖は差出人の近親者なので話がある、岡山県まで来てほしいというものだった。同封の切符で現地に向かう聖は、やがて迎えに来た男の案内で「盃島」という孤島に招かれ、そこにある四階建ての荘厳な館「神綺楼」を訪れる。屋敷では4人の16歳の少年少女が独自の英才教育を受けながら、外界と途絶された空間の中で生活していた。そして……。 もともと本作は、著者が2016年から自分のwebサイトで無料公開していた新作長編だったが、このたび初めて書籍化(文庫版)。 評者は5~6年前、久々にミステリ全般を本腰を入れて(?)ふたたび読み出した当初、この作者の『模造殺人事件』に遭遇(たしか当時、webかなにかで面白いと紹介されていたのだと思う)。読了してえらく感銘を受けた記憶がある。思えば、林泰広の『見えない精霊』とこの『模造殺人事件』が、しばらくミステリを離れていたらこんなスゴイものが出ていた! という私的な感じの、双璧的な作品であった。 というわけで2016年の本作『魔術師』も以前から意識してはいた(作者の情報を検索したら、この作品にすぐ行き当たった)が、評者は個人的に電子書籍で小説を読むのが苦手な方なので(その形式でしか読めない作品はいくつか電子購入してあるが、マトモに読んだことはまだひとつもないと思う)、関心を抱きながら自然と消極的になっていた。 そうしたら、今年になってついに本作が『模造』とのカップリングで、初の紙の書籍化。待てばカイロの日和あり、サム・スペードの苦笑あり、だ(笑)。 それでようやく読んだ本作だが……あー、完全な館もの(&クローズドサークルもの)だったのね。隔絶された世界で養育されるエリート的な若者という趣向は『黒死館殺人事件』を想起させ、物語の舞台となる「神綺楼」の中核の博物室でのペダントリイ趣味など、正に先駆のリスペクトである。ただしさすがに本家ほどクレイジーな盛り込みはされてない。 肝心のミステリ部分は、もちろん仕掛けがものを言うガチガチの新本格なので、ここではあまり詳しくは書けないが、中核のアイデアは既視感は抱くもの。ただしその周囲や作品全体に、二つ目三つ目の大きなギミックを配することで、それなりに面白いものにはなっている。クロージングの妙な引きもなかなか。 ただまあ『模造』に初めて、ほぼ白紙で出会ったときのようなインパクトには、さすがに至らなかった。それでも十分に力作だとは思うし、今年の広義の新刊としてはしっかり注目されてほしい、とも思う。 いつになるかわからないけれど、作者にはまたいつか、この手のケレン味いっぱいの新本格をぜひともお願いしたい。 評点は0.25くらいオマケ。 |