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ミステリの祭典

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アメリカの友人
トーマス・P・リプリー

作家 パトリシア・ハイスミス
出版日1992年07月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 6点 レッドキング
(2024/08/10 23:00登録)
リプリーシリーズ第三弾。今回のリプリーは操り役。自分の利害に無関係な国外マフィア殺人計画に参画し、気まぐれな理由から、余命わずかの男に白羽の矢を立て、実行役として間接的に操る。しかし、いざという場面では、気まぐれに捨て身の手助けをしてしまう。この作では、白血病の英国人・・リプリー同様に仏人女を妻として仏で暮らす男・・が、妻子へ残す報酬目的のニワカ暗殺者として、リプリーと同格の主役を張る。その暗殺者にシンクロするかの様な、リプリーの虚無的な破滅衝動と殺戮衝動。暗殺者の妻が、カトリック的敬虔さから一転して、遺産への執着と含羞の発作的反応を見せるラストの苦さがよい。これも、男二人の「無自覚の同性愛」を間接暗示するエピソードなんだろな。第一殺人の「見えない男」描写が絶品。

No.2 6点 蟷螂の斧
(2021/12/25 09:19登録)
本作はシリーズ3作目ということである。やはりシリーズものは順番に読まないといけないと痛感。特に主人公・リプリーの殺人に関する考え方がどのように変化し、現在に至ったか不明のため、その行動にかなりの違和感があった。まあ、リプリーの謎の性格が魅力的であるともいえるのだが・・・

No.1 8点 人並由真
(2021/08/28 17:51登録)
(ネタバレなし)
 1970年代前半のフランス。アメリカ人でひそかな殺人者のトマス(トム)・リプリーは、周囲の一部の者から危険な人物と噂されながら、持ち前の人たらし能力で知己や友人を増やし、美貌のフランス人の妻エロイーズとともに落ち着いた日々を送っていた。そんななか、暗黒街のギャンブル業関係者でリプリーの裏の顔を察するリーヴス・マイノットが、誰かアマチュアの殺人者を知らないかと相談にきた。リーヴスはマフィアの干渉を受けており、自分たちと無縁で足がつかない、対マフィア用の刺客を欲していた。リプリーは、知己の男で、些細なことから自分に不興を感じさせた白血病の英国人ジョナサン・トレヴァーのことを思い出す。そしてジョナサンの周囲に、当人が余命少ないらしいという、もっともらしい噂を流して心理的に追い詰めた。やがて悲観したジョナサンは、愛する妻子のために金を遺そうと「スティーヴン・ウィスター」と名乗ったリーヴスからの殺人代行の依頼を受けようと考える。

 1974年の英国作品。リプリーシリーズ第三弾。
 
 シリーズ再開作品の第二作目『贋作』を経て、良くも悪くも連続シリーズものの波に乗ってきた感のある一作。
 ネタがマフィアがらみなのは、当然、この時期(1970年代前半)、あの『ゴッドファーザー』(原作69年、映画72年)の影響で世界的にマフィアものブームが起きていたこととも無縁ではないだろう。そのことがハイスミス自身が書きたかった主題なのか、編集部の打診や要請だったのかは、不明だが。
(実際に本作の作中にも、小説の方の『ゴッドファーザー』の話題が出てくる。)

 34歳の額縁職人で貧しい小市民のジョナサン・トレヴァーは難病を抱える身。彼は以前にちょっとした縁で出会ったリプリーに、ついそんな深い意図もなく不敬めいたこと? をしたために目をつけられ、リプリーの思考実験「その人間の周囲に意図的な流言飛語を流すことで、どれくらい当人の精神を支配できるか」みたいな悪意の対象にされてしまう。
 ……すごいな、今回のリプリーは、いつにもまして。まるで藤子A先生の喪黒福造か黒ベエみたいな、ブラックなプラクティカルジョークの主だ。

 そういうわけで物語の前半は次第に蟻地獄に落ちてゆくジョナサンがほとんど主役。なんかリプリーの出番も少ないので、これはシリーズ番外編みたいな作りかな? と思っていたら、中盤で!!!!!!!!!!!(中略)

 あー、ここで(我ながらマヌケであったが、)実はこの作品、文庫の旧版が刊行された90年代の半ばに、この(中略)な中盤の場面まで一度読みかけておきながら、そこで中断したままだったのを、いっきに思い出した(!)。
 この途中のシーンで、そこまでの当時の自分の読書の流れが、いっぺんに蘇る。

 で、なんで<ソコ>で読むのをやめていたかというと、該当の場面であまりにインパクトを受けた反面、その時点では、まだシリーズ第二作『贋作』を未読だったことを意識して、「これはもう、そっちを読んでから、このシリーズ3冊目を読んだ方がいい!」と思ったからなのだった。(そうだ、そうだったよ!)

 ……というわけで、今回はもう当然、すでに『太陽』も『贋作』も読んでいるので、そのまま最後までイッキ読みである。
 いや、メチャクチャ面白いです。期待通りに。コーヒーと栄養ドリンクを飲みながら、眠い目をこすりつつ、明け方までかけて徹夜で通読した。クライマックスの展開もある意味ではパターンというか、先行2冊の作劇のフォーマットにのっとっているのだけれど、一方でこの作品の設定やキャラクター配置ならではの独自性もちゃんと設けられている。そういう意味ではシリーズもの作品としての完成度も高い。

 しかしリプリー、改めて鮮烈なキャラクターだわ。いやクレイジーとか底がしれないとかそういうのではなく、なんというか常人の内面に誰でも潜在する陰影と人間性をあまりにもくっきりさせながら描いていくと、こういう小説内での人物が生まれる、というそういう種類での凄味がある。この魅力のほどは、なかなか語りきることが難しい。シリーズの残りもあと2冊。
 あまりダラダラとシリーズが長く続かなかったのは、たぶん良かったんだろうね。じっくり、読んでいきましょう。

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