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ミステリの祭典

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原因において自由な物語

作家 五十嵐律人
出版日2021年07月
平均点4.67点
書評数3人

No.3 6点 猫サーカス
(2022/08/17 18:47登録)
現在から数年先が舞台で、顔の良さを数値化した顔面偏差値を高精度で測定するアプリが存在する世界。本書の重要人物の佐藤琢也は、その数値が低いことを糸口として、学校でいじめられていた。追い詰められた彼は、五階建ての廃病院から飛び降りることを決意する。もう一人の重要人物、二階堂紡季は、人気作家だが、作家生命を左右しかねない重大な秘密を抱えていた。琢也の決意の謎に紡季の秘密が想定外のかたちで融合する。まずはその展開に圧倒される。各自の苦悩に引き寄せられ、それぞれのストーリーが紡季の恋人である弁護士を介して融合する構図に驚愕し、結びついたことで新たに浮かび上がる謎にからめ捕られる。そのうえで、ともすれば不可解に思える行動に走る登場人物たちの心の奥底にある痛みや切なさを知って震撼するとともに、かなり苦い味わいだが、紡季の小説家としての決断を通して、物語という存在の重さ、強さ、そして可能性の大きさを、改めて認識することになる。

No.2 5点 HORNET
(2021/09/26 16:15登録)
 二階堂紡季は、恋人の想護にプロットを書いてもらい、それを原稿に起こすことで作品を書いている作家。そのプロットは章ごとに順次もらっており、書いている紡季自身も物語の結末を知らない。今回のプロットは、「ルックスコア」という、顔写真で顔面偏差値を出すアプリが蔓延する世の中で、容姿が原因でいじめに遭っている男子高生が廃病院の屋上から飛び降りるシーンから始まっていた。ところがこれを原稿にして編集に渡したところ、編集者から「これって、フィクションなんですか?」…何と想護が書いたプロットは、1年前実際にあった事件を完全に再現した内容だった。恋人の真意を測りかねていたその矢先、その想護が当の廃病院屋上から転落したとの一報が入る―

 アプリや写真加工などの現代的なアイテムや、テンポの良い文体により、エンタメとしては面白かった。
 ただ、後半の真相に深く関わってくる、高校生や想護ら各人物の行動動機が多分に観念的・叙情的で、あまりすっきりしなかった。私はどちらかというとミステリの謎には論理性を求める方で、死生観や人の深層心理といった観念的要素が真相に深く関わってくると冷めてしまうところがある。まぁ好みの問題だと思う。
 プロットの作り手である想護が意識不明の重体になったことで、その先に書かれることになっていたであろう事件の真相を、恋人の主人公と弁護士が追うという大掛かりな仕組みだったが、行き着くところは学園で起きたいじめ事件の捜査であり、内容的には平均的だった。

No.1 3点 文生
(2021/08/22 15:48登録)
本作は、学校でのイジメを巡る不審死の謎を追う物語で、社会派ミステリーとしてなかなか読み応えがあります。また、デビュー作以降ネタを思いつけない女性ミステリー作家が友人の男から秘密裏にアイディアを提供してもらっていたところ、新作のストーリーが実話だと判明し、それと同時に男が墜落事故を起こして意識不明の重体になるという謎も非常に魅力的です。ただ、問題は、男がなぜヒロインに実話を新作小説として書かせようとしたかです。これが到底納得できない理由であり、物語全体を台無しにしています。また、男は善人として描かれているものの、実話をフィクションと偽った結果、ヒロインにかけた迷惑を考えると常識がないとしか思えません。さらに、男の不可解な行動と意識不明になった事件との間に特に関連性がなかったのもミステリーとして肩すかしでした。











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