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ミステリの祭典

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傷痕のメッセージ

作家 知念実希人
出版日2021年03月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 7点 パメル
(2024/10/08 19:30登録)
外科から病理部に出向した水城千早は、顕微鏡を覗いてばかりの仕事にうんざりする毎日。千早を指導する同期の病理医・刀祢紫織ととも馴染めず、「早く外科に戻りたい」とばかり考えていた。そんな千早には、末期癌で入院中の父がいた。
ある日、見舞いに訪れた彼女に対し、父の穣は帰らぬ人となってしまう。悲嘆にくれる千早だったが、思わぬ事態はさらに続く。穣は「死後すぐに、自分の遺体を解剖して欲しい」という不可解な遺言を残しており、病理部で机を並べる紫織が執刀することになったのだ。解剖の結果、穣の胎内から見つかったのは胃壁に刻まれたメッセージ。父は内視鏡で胃粘膜を焼き、暗号のような文字列を残していた。死の間際、父はなぜ千早を突き放したのか。そして、胃に刻んだメッセージの意味するものは。その謎を解くため、千早と紫織は胃壁の暗号を解読しようと試みる。性格も価値観も全く違う二人が一つの謎に向き合ううち、不思議な連帯で結ばれていくもの面白い。
千早を驚かせたのは、胃壁から見つかったメッセージだけではない。穣の死を知って訪ねてきた桜井刑事からは、父がかつて捜査一課の刑事であり、28年前に起きた幼児連続殺人事件、通称「折り紙殺人事件」を追っていたと聞かされる。さらに、父が亡くなったその日から、当時を彷彿とさせる新たな殺人事件が発生。過去と現在の事件について捜査する警察側の動きも、桜井の視点で語られていく。
事件は二転三転し、千早と紫織、桜井刑事は各々の道筋から連続殺人犯の正体に辿り着く。それだけでは終わらず、千早と父をめぐる親子の物語も胸を大きく揺さぶる。冒頭で作品の柱となる大きな謎を提示し、それを解くための小さな謎が次々とやってくるという構成、スピード感のある展開、スリリングなサスペンスミステリとして楽しめる。死者の想いを聞き取る病理医だからこそたどり着ける結末が深い余韻を残す。

No.2 6点 mozart
(2024/05/14 07:18登録)
終盤の展開-探偵役が主人公に(勿体ぶっているかのように)なかなか「真相」を告げないこととか最後で主人公が絶体絶命状態の時にギリギリ救いが間に合うとか「意外な」真犯人とか-がややベタでしたが、緊迫感のある展開は面白く父親が隠し続けた秘密の真相もなかなか衝撃的でした。

どうでも良いことですが今回の事件では桜井刑事がほぼ自由に動けているのに天久鷹央の助力を頼まないのは今作がパラレルワールドの別作品だからなのか彼女が興味を持つような「謎」がないからなのかというと……やはり後者なのでしょうね。

No.1 7点 ぷちレコード
(2021/07/30 23:07登録)
医療の専門知識を生かしつつ、家族の絆を問うスリリングな展開で引っ張っていく。
大学付属病院の女性医師で、外科から病理部へ出向中の千早は、唯一の家族である父をがんで亡くす。かつて刑事だった父の遺言に従い、同級生で指導医の紫織と病理解剖した結果、胃に暗号が刻まれていることが明らかに。同じころ、かつて父が追い、未解決のままだった連続殺人犯「千羽鶴」の犯行が28年ぶりに再開され、2人に忍び寄る。
父が抱えていた謎と現在進行形の殺人事件の絡まり合い方が絶妙。
何よりも作品をユニークにしているのは、司法解剖を担う法医学医ではなく、医学の発展のために解剖する病理医に焦点を合わせた点だろう。探偵役である紫織の死者との向き合い方が、亡き父の声を娘に伝えることにつながり、胸に迫る。

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