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ミステリの祭典

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四季 夏

作家 森博嗣
出版日2003年11月
平均点6.33点
書評数3人

No.3 5点 E-BANKER
(2021/04/29 22:20登録)
「四季」四部作の二作目は当然「夏」。四季も成長して十三歳・・・。
目くるめく森サーガはどのような展開をしていくのか。
2003年発表。

~十三歳。四季はプリンストン大学でマスタの称号を得て、MITで博士号も取得し真の天才と讃えられた。青い瞳に知性を湛えた美しい少女に成長した彼女は、叔父・新藤清二と出掛けた遊園地で何者かに誘拐される。彼女が望んだもの、望んだことは? 孤島の研究所で起こった殺人事件の真相が明かされる第二弾~

本作にはうわべだけの書評なんて必要ない。いや無意味だろう。
以上、終了。

・・・いやいや、さすがにそれでは気が引ける(何に?)、ということで雑感だけを記す。
本作はいわゆるミステリーでは全くない。
ラストに衝撃的な展開が待ち受けてはいるが、中途は目に見える形では「謎」の提示もなく、事件めいた事象も起こらない。ただ、ひたすら、四季の目で捉えた事象、話した言葉、頭の中のイメージが語られていくだけ。
それでも。読者は揺さぶられる。圧倒的な世界観に。

今回のサブタイトルはRed Summer! 確かに「Red」。
四季にとっての「生」とは、はたまた「死」とは。人は「死ぬ」のではない。「死ななければならない」のだ。それが彼女にとっての唯一無二の帰結、ということなのだろうか?
今回は前作に引き続きとなる紅子、各務のほか、保呂草も登場する。時系列の壁を越えて登場する森サーガの役者(登場人物)たち。まるで彼らの群像劇のようだという思いを強くした。

誘拐された(?)四季と彼女を発見した林(この書き方って叙述トリックですか?)のやり取りがなかなか秀逸。紅子とかつて夫婦だったことを一瞬にして四季に言い当てられた林。結婚指輪を外してない林が「外れないだけ」とうそぶくのに対して、「嘘」「緩そうだもの・・・」って返す13歳。何か心に残る場面だ・・・

No.2 7点 Tetchy
(2021/02/14 23:50登録)
真賀田四季13~14歳の物語。妃真賀島にて真賀田四季研究所の建設が始まったのがこの頃。
そして13歳は思春期の始まり。感情に流されない左脳型天才少女は生まれてすぐに自我に目覚め、このような右脳型思考とは無縁だと思われたが、やはり彼女も人間。人を好きになるという感情、綺麗と思うこと、後悔することを意識し出す。そう感情の揺れを感じるようになる。

真賀田四季生い立ちの記とも云える4部作の第2部である本書では前作にも増してそれまでの森作品の登場人物が出演し、それぞれのシリーズの“その前”と“その後”が語られる。
そう、S&MシリーズとVシリーズの橋渡し的役割が色濃くなってきている。
そしてそれら登場人物たちの、それぞれのシリーズにおいても明確に語られなかった秘密や心情が真賀田四季のフィルタを通して更に詳しく語られる。それが実に面白い。

本書のメインはこの保呂草と真賀田四季の邂逅だろう。
全てを見抜く真賀田四季は各務亜樹良が外面はクールを装いながらも実は保呂草のことを愛しているのを見抜く。そして保呂草もまた各務亜樹良のことを愛している。しかしそれぞれ個を重んじる2人は相思相愛でありながらも一緒になれないと自覚している。
更に保呂草の美術専門の窃盗犯である所以もまた明らかになる。
彼は別にスリルを味わいたくて泥棒稼業をやっているのではなかった。またその稼業を生活の糧にしているのでもなかった。彼が盗みを働くのはただ1つ。その価値あるものがそれを持つに相応しい人の許に収まるべき、またはそれがあるに相応しい場所に収めるために彼は盗みを働くのである。これこそが保呂草潤平の美学なのだ。

夏は情熱の恋の季節と云う。
例えば先に書いた各務亜樹良は本書で退場するが、その理由は南米へ飛んだ保呂草潤平の後を追うためだ。彼女はもう自分に正直であろうと決意し、保呂草の許へと飛ぶのだ。この謎めいた女が実は心の奥底に斯くも情熱的な想いを抱いていたことを知るだけでも読む価値はある。
そして類稀なる天才少女真賀田四季もまた例外なく思春期を迎え、そして恋に落ちる。それは冷静でありながらもどこか破滅的、そして天才らしく冷ややかに情熱的な恋だった。
幼き頃からその天才性ゆえに全てにおいて誰よりも早い彼女は恋に落ちた途端にすぐに愛を交わし、そして妊娠を経験する。
彼女の相手は叔父の新藤清二。彼女は大学教授の両親の遺伝子を持っていながら医師である叔父の遺伝子を持っていないことで、その全てを備えた子供を作るために彼と寝たのだ。しかしそれはそんな打算だけではない。彼女は新藤に恋をし、彼を欲しいと思ったのだ。
また四季が子供を欲しいと思ったきっかけが瀬在丸紅子であった。彼女が認めた天才の一人、瀬在丸紅子は子供を産んだことで全ての精神をリセットしたと四季は理解した。彼女は今まで出逢った人の中で瀬在丸紅子こそが自分によく似ていると感じていた。しかし彼女は紅子のように自分はリセット出来ないだろうと考えてはいたが、何かを忘れるという行為に憧れていた。そして紅子と同じように好きな人の子供を作れば何かが変わると思ったのだ。
四季が新藤と愛を交わしている時、エクスタシーに達する瞬間、彼女の中の全ての意識が、思考が全て停止するのを体験した。

しかし彼女はやはり情よりも理で生きる女性だった。妊娠をする、子供を産むという行為は本来であれば祝福されるべきなのにそれにショックを受ける両親が理解できない。ひたすら憤り、そして堕胎を促す両親に対して、四季は自らの手で彼らに引導を渡す。第1作『すべてがFになる』で語られていた事件が本書によって描かれるのだ。

本書では四季自身がとうとう両親に手を下す。そして彼女は近親者の子供を宿す。考えるだにおぞましい人生だ。
しかしその理路整然とした思考と態度ゆえに、森氏の渇いた、無駄を省いた理性的な文体も相まってその存在は血の色よりも純白に近い白、いや何ものにも染まらない透明さを思わせ、澄み切っている。

我が子という新しい生と両親の死という誕生と消滅の両方を経験した真賀田四季。彼女は平気で死について語る。
それはまさにコンピュータで使われる二進法、0と1しかない世界のように実に淡白だ。生と死の間に介在する人の情に対して彼女は全く頓着しない。必要であるか否かのみ、彼女の中で選択され、そして判断が下される。

そんな彼女の話はまだ秋、冬と続く。それ以降を知る私たちにそれまでの彼女を教えるかのように。いや更に我々の知らない四季のその後へと続くだろうか。

このシリーズはそれまで謎めいた存在だった真賀田四季という女性について知るための物語であるのに、近づいたかと思えば、読めば読むほど彼女の存在が遠くなる気がする。
冬に辿り着いた時、真賀田四季は一体どこに立っているのだろうか?

No.1 7点 メルカトル
(2021/01/07 22:25登録)
  四季  <夏> 

十三歳。四季はプリンストン大学でマスタの称号を得、MITで博士号も取得し真の天才と讃えられた。青い瞳に知性を湛えた美しい少女に成長した彼女は、叔父・新藤清二と出掛けた遊園地で何者かに誘拐される。彼女が望んだもの、望んだこととは?孤島の研究所で起こった殺人事件の真相が明かされる第二弾。
『BOOK』データベースより。

四季十三歳の物語。美しいです、ロマンティックと言っても良い。おそらくシリーズ最高傑作ではないかと思います。まだ秋冬が残っていますが。
前作と違い四季が思春期を迎えて、人間らしさ或いは女の本能を晒して、読者は天才のこれまでに見られなかった一面を目の当たりにする事になります。天才少女の誘拐事件や叔父とのあれやこれなどの大冒険ののちに、やがて訪れるカタストロフィ。ストーリー性も申し分なく、森博嗣にしては透明感が感じられる、それでいて人間味あふれる逸品に仕上がっていると思います。

『春』を飛ばして本作から入っても大きな問題はありませんが、やはりこの人誰?となる可能性は否定できませんので、順序を守って読むのが正解でしょう。コスパが決して良くないので、出来れば古書店で税込み110円で入手するのが吉かと思います。ノベルス版にはない読者の感想が載っているので、ちょっぴり文庫のほうがお得です。

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