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ミステリの祭典

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緋色の残響

作家 長岡弘樹
出版日2020年03月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 5点 E-BANKER
(2022/06/02 21:36登録)
~刑事であった夫が殉職後、強行犯係の刑事として、またひとり娘の母親として日々を過ごす羽角啓子。中学生の娘。菜月の将来の夢は新聞記者になることだ~
ということで、今一番「短編の名手」という名前に相応しい作者の短編集。2019年の発表。

①「黒い遺品」=へぇー、もう今ってモンタージュはなくなってるのね。というわけで、目撃者となった娘・菜月は途切れがちになる記憶を手繰り似顔絵を描くことに。真犯人は最初から何となく自明。
②「翳った水槽」=家庭訪問に訪れた女性教師。母親(啓子)に会えず帰っていった教師が何者かに殺される事件が発生。たまたま教師の自宅へ訪れていた娘・菜月・・・って、よく関係者になるよね。で、今回も真犯人は何となく察してしまう。メダカの性質のことは・・・知らなかった。
③「緋色の残響」=娘・菜月が昔通っていたピアノ教室。懐かしさから訪れた結果、生徒が絡む殺人事件に巻き込まれることに。で、この「残響」なんだけど、深読みし過ぎじゃない?
④「暗い聖域」=中学生の分際で〇〇なんて・・・。昔、これをテーマにした地上波ドラマもありました。しかし、またしても事件の関係者は娘・菜月の同級生。
⑤「無色のサファイア」=いくら新聞記者志望でも、こんなことやるかねぇ・・・。相当非現実的だと思うんだけど・・・。

以上5編。
現在のミステリー界でここまで短編に拘っている作家も珍しい。短編好きの私としてはできるだけ応援したい気持ちはある。
短編は、長編と違って書き込める量が少ない分、どうしても紋切り型になりやすい。特に意外な結末なんかを用意しようと思えば思うほどリアリティを犠牲にすることになる。
本作は、連作短編集としてもまぁよくできてるとは思う。、同じ学校や娘の生活圏で、よくもまあ殺人事件が頻発するもんだという横槍は入れたくなるんだけど、これはまぁ仕方ないかな。

でも何かひとつ食い足りない気がする。何だろう?
強いて言えば「リズム」とか「余韻」のようなものか。そういう意味では横山秀夫や米澤穂信の域には達してないかな。でも、これからもどんどん短編を発表してください。
(個人的ベストは②かな。他もあまり差はない。)

No.1 7点 HORNET
(2021/02/07 15:33登録)
 杵坂署の女性刑事・羽角啓子は、先輩刑事であった夫に先立たれ、中学生の娘・菜月と2人暮らし。家を空けることも多い多忙な母親だが、新聞記者を目指す菜月は、事件について母親と話すことも多く、良好な親子関係だった。本作は、そんな羽角母娘を主人公にした全5編からなる連作短編集。
 「翳った水槽」「緋色の残響」「暗い聖域」の3編は、菜月の通う中学校での事件であり、最後の「無色のサファイア」も含めて、本作品集は娘・菜月の活躍場面が多い。どの話も独特の切り口から真相解明に至る仕掛けで、各話ともユニークだった。特に最後の「無色のサファイア」は伏線の描き方からオチまでの流れが非常に巧みだった。
 日本推理作家協会賞短編部門受賞の「傍聞き」の母娘が、作者のフィールドである短編で三たび、存分に魅力を発揮する。

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