同姓同名 |
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作家 | 下村敦史 |
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出版日 | 2020年09月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | パメル | |
(2024/05/26 06:45登録) 冒頭で六歳の少女・津田愛美が公園の公衆トイレでめった刺しの遺体となって発見されるという痛ましい事件が紹介されるが、物語はありがちなサイコホラーものようには運ばない。 やがて容疑者が逮捕されるが、それは十六歳の少年だった。当然ながら少年の名前は伏せられるが、犯行の残虐性や遺族の悲しみを考えれば実名報道がふさわしいということで、少年法改正の声が強まっていく。世間が揺れ動く一方で、やがてとある雑誌が少年Aの実名公表の挙に出る。その実名とは「大山正紀」だった。将来を嘱望されるサッカー高校生の大山正紀やネットゲーマーの大山正紀、コンビニでバイトに励む大山正紀もそうした風説の渦中に巻き込まれていく。 彼らは殺人犯と名前が一緒だったというだけのことで、進学や就職への道が閉ざされてしまう。ネットの時代となりSNSの網を張り巡らされた今、世の利用者はあぶれ者の断罪に、いともたやすく走る。マスコミのように事実のウラを取ったりはしない。その情報が際立ったものであればあるほど、発信者の言うがままに乗せられてしまう者も少なくない。そうした現代情報社会が抱える闇の恐怖をスリリングに暴いている。 後半になると、社会派のタッチを温存したまま、謎解きものの様子を強めていく。少女殺しが起きてから七年がたち、服役を済ませた犯人・大山正紀は釈放される。大山正紀と同姓同名の一人が、ネットで世の同姓同名たちに呼びかけ、「大山正紀同姓同名被害者の会」を立ち上げる。そこから始まる、大山正紀たちによる大山正紀狩りは二転三転していく。よくぞこんなことを考えつくものだと感心してしまった。同一名の描き分けは難しいと思うが、ひとつひとつの人生を丁寧に描いているため、それぞれの人物像も自然と頭に入ってきて混乱することはなかった。 |
No.2 | 5点 | HORNET | |
(2021/11/03 23:26登録) 取り上げた素材は面白い。現代にマッチしたものでもあると思う。が、とにかく「大山正紀」がたくさん出てきて、どれがどの大山正紀なのか、こんがらがってしまう…(まぁそれが作者の仕掛けなのだが)。そのやり口に早々に気が付いて、「これはきっとあの大山正紀なんだな」なんて推理も交えて読んでいくのだが… おまけに各章の時制もかなり入り組んでいて(これもあとから分かる)、うまく伏線を仕組んでいるとは思うのだが、ラストで答え合わせをするのもなかなか難儀だった(笑)。 よく仕組まれているとは思うが、ちょっとそれに走りすぎかな? |
No.1 | 7点 | 虫暮部 | |
(2020/12/18 13:30登録) おぉ社会派だ。且つミステリとしてのエンタテインする味わいもしっかり取り込んで、作者はなかなか健闘したと思う。因みに、私の本名で検索を試みると、BL小説のキャラクターがまずヒットするんだよね……。 一つ気になった点:誹謗中傷する側の行動や文言が、かなり判り易く馬鹿っぽい紋切り型になっている。それはつまり“読者が読みたがる範囲内の仮想敵”と言う作者の演出なのかなぁ、それがあの程度のものだと思われるのはあまり面白くないなぁ。現実に流用されないように、歯応えのある罵詈讒謗は自粛しているのだろうか。 |