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ミステリの祭典

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怒り

作家 吉田修一
出版日2014年01月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 7点 ʖˋ ၊၂ ਡ
(2022/07/01 14:23登録)
一年前に起こった殺人事件。犯人は逃走。三つのポイントに現れる犯人と思しき謎の人物。謎の人物と人々との交流が丹念に辿られ、皆それぞれの場所でそれぞれの関係を築いていく。三人の人物の中、一体犯人は誰なのか。
一行たりとも目が離せない。犯人探しというミステリ要素もさることながら、一番の読みどころは近しい人間に疑いを抱かざるを得ない登場人物たちの葛藤でしょう。
その不信感は、それぞれの自分自身への自信のなさに根ざしていて、疑いは自身への辛い過去や心の傷と向き合うことに繋がる。展開はやるせないけれど、救いも用意されている。

No.2 6点 パメル
(2022/06/02 09:33登録)
冒頭で、凄惨な殺人現場の報告がある。八王子郊外の新興住宅地で夫婦が殺され、血まみれの室内に「怒」という血文字が残されていた。
その一年後、三つの場所で三つの物語が始まる。房総半島の漁師町、東京、沖縄の小さな島。家出を繰り返す娘を見守る漁師、大企業に勤める青年、夜逃げ同然に島に移住してきた女子高生。異なる土地の風土と暮らしが生き生きと描き分けられ、秘密を抱えて生きる優しい人々が丁寧に造形されている。
三つの場所のそれぞれに素性の知らない若い男が出現する。彼らはみな穏やかな若者だが、報告された犯人像に類似した特徴を持っている。三人のうち誰かが犯人ではないか。その誰かが凶悪な闇を噴出させたら、彼を信じて受け入れたこの善意の人々はどうなるのか。作者は読者の心理にサスペンスを仕掛けている。ユニークなスタイルの犯罪小説だが、作者の狙いは犯人捜しでも「心の闇」の解明でもない。
ますます流動化する社会にあって、人々は互いに秘密を隠し持つ孤独な他人同士として現れる。他人に闇の深さは誰にも測れない。共に生きることは、闇を抱えた相手をそのまま受け入れることだ。その究極の受け入れが「愛」や「信頼」と呼ばれる。読後に静かに立ち上がってくるのは、人間の信じる能力、愛する能力について深い問いかけのようだ。

No.1 7点 zuso
(2020/09/28 19:36登録)
人を信用することの難しさや脆さ、人が抱く怒りとは何かを、丁寧にすくい取っている。

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