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ミステリの祭典

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まほり

作家 高田大介
出版日2019年10月
平均点4.67点
書評数3人

No.3 5点 猫サーカス
(2024/04/27 18:18登録)
長谷川淳は妹のぜんそくの療養のため、都会から山深い集落にある父方の曽祖父母の家に移住してきた。ある日、一人で渓流釣りに出かけた時、奇妙な少女に出会う。赤い着物を着て尋常な様子でないその少女は、村人に拉致されるように連れ去られた。その少女に再びであったのは村の祭りだった。御神楽で篳篥を吹いている少女と目が合った瞬間、淳は心を奪われ彼女のことを調べようと決意する。並行して語られるのは社会学を専攻している大学生・勝山裕。彼は飲み会で不思議な体験談を聞く。ある同級生の友人の故郷の街ではところどころに四つ割りにした半紙に二重丸が書かれたものが軒先や町の掲示板に何気なく張り出されることがあるという。この二人がやがて出会い、二重丸の意味と少女の正体を、神社の由緒や歴史学的な見地を総合して暴いていくのだが、推理の経緯が極めて精緻なのだ。閉鎖された集落に残された因習の謎が解き明かされた時、犠牲となった少女たちの無念が晴らされる。「まほり」という言葉の意味を知った時、背筋に冷たいものが走った。

No.2 3点 makomako
(2023/01/12 20:26登録)
 民俗学的を主体とした推理小説は好みなので、楽しみにして読み始めました。
 確かに民俗学のお話ではあります。
 さすがというか学者さんが書いたため文献の読み方や統計的分類法、文献そのものの客観性を高めるための方法など事細かく記載されており、あたかも研究論文の書き方みたいな内容が延々と続きます。大学の講義みたいです。
 これで私は完全にいやになってしまいました。
 さらに研究内容があまりに暗く残酷であり、読み続けるのに骨が折れたというのが正直な感想です。
 今まで読んだ民俗学などをベースとした推理小説なんかでは、多くが変わった意見を述べている文献や学者の意見をうまく取り入れて探偵が推理するといったところが面白いのですが、本書を読むとそんなのは学術的手法ではなく単なる空想(妄想)であるようです。
 空想だから感覚的に取り入れやすいのですが、現実の学問をそのままやられると、ちょっとうんざりしてしまいます。

No.1 6点 人並由真
(2020/03/01 04:11登録)
(ネタバレなし)
 喘息の妹の療養のため、家族ぐるみで埼玉県から上州に引っ越してきた中学生・長谷川淳。彼はある日、川辺で奇矯な行動をとる謎の美少女に出会う。それからしばらくしたのち、社会学を専攻する大学四年生・勝山裕(ゆう)は学友たちと各地の都市伝説を話題にしていたが、仲間の一人から上州のある寒村での奇妙な風習? を聞かされる。その村が自分の出身地と近いこともあって、関心を抱いた裕は現地でのフィールドワークを開始。故郷の図書館で司書の卵として働く中学時代のガールフレンド・「メシヤマ」こと飯山香織を相棒に迎えて調査を続けるが、やがて現地の異常な秘密が……。

 話題になっている昨年の新刊の一冊として、読んでみた。
 評者は、作者の人気作品で本サイトでもtider-tigerさんの熱いレビューがある『図書館の魔女』の方は未読。本作が作者との初めての出会いである。

 それで内容だが「(著者の)初の民俗学ミステリ」を謳うだけあって、何かただならぬ事態を予感しつつ、それに関連するかもしれない史料や伝承を読解・考察・受容していく主人公コンビ(ここでは裕と香織)の探求ぶりはボリューム感たっぷりに語られる。
 その道筋は、事件性のある謎(ミステリ)を探るための手段というより、正に<学究の徒はいかに古来からの文献や情報に接するべきかという方法論や立ち位置の再確認>。そんな叙述をエンタテインメント小説としてぐいぐい読ませるパワフルな筆力は十分に感じた。この部分だけ切り離して愉しむなら、民俗学ミステリ、あるいは歴史ミステリというよりも『舟を編む』みたいな、専門分野への実践的な取り組みドラマとかの触感に近いような気がする(と言いつつ評者は、くだんの『舟を~』は、深夜アニメ版しか観てないんだけど~汗~)。

 それでその辺の学究部分はともあれ、肝心の事件の実体はどうなの? と改めて思い始めた頃合いに、物語は本筋に回帰。裕たちがもう一人の主人公・淳と合流して、絶妙なタイミングでクライマックスに向けてストーリーが動き出す。このあたりのお話作りの呼吸もよく出来ている。

 とはいえ本作のキーワード「まほり」の真実に関しては意外といえば意外だが、仰々しくドラマを盛り上げた割に、謀(はかりごと)の実体としては大山鳴動して鼠一匹という感も……。というか、それ以前に真相を先読みできる人も多そう。
 評者もたしか昭和40年代の秋田書店の少年漫画誌の増刊号か何かの読み切り作品で、まったく同じネタのものを読んだ記憶が甦ってきた(あまりにマイナーすぎる漫画ゆえ、こう書いてもぜ~ったいにネタバレにならないと思うが)。

 あと、事件終結後のエピローグは鮮やかにドラマを決めてくれた……という感じに受け取るべきなんだろうけれど、一方でこういうクロージングに持って行かれると、そこにいくまでの登場人物の内面描写に、やや不自然な印象も抱いてしまう。<あのタイミング>で<そっち>への連想は生じていなかったのであろうかな、とか(あるいはあえてその辺りは、叙述の上でぼかされていた……という解釈でもいい……のか?)。

 読み応えはたしかにあったが、優秀作と褒めきるには、ちょっと引っかかるところがなくもない一冊。でもトータルとしてはなかなかの出来ではある。普通の作家には絶対に書けないタイプの作品だとは思うし。

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