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ミステリの祭典

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異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件
バンゲアの名探偵ヴァン

作家 片里鴎
出版日2019年10月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 メルカトル
(2023/03/23 22:59登録)
元警察官でミステリマニアの私立探偵の「俺」はくだらないもめごとに巻き込まれて死んでしまい、記憶を持ったまま異世界の住人として転生し、ヴァンと名乗る。転生した先は、剣と魔法、モンスターとダンジョンがある世界。そこでヴァンは、持ち前の魔術の才能に前世からの知識や記憶を活かして、王都の名門校に入学する。入学から3年。王女から表彰を受けるほど優秀な成績を収めたヴァンだったが、その表彰式のさ中、惨劇は起きた。不可解と言えばあまりに不可解なこの事件を解決できるのは果たして誰か!
『BOOK』データベースより。

タイトル通り異世界での事件なので、まずそれを念頭に置かなければなりません。つまり魔法が使える一種の特殊設定ものと捉えて、物語のどこかで何らかの形でそれが駆使されると覚悟して読み進めて頂きたい作品です。しかし、魔法がまかり通る世界では何でもアリではないかとの懸念も持たれる向きもあろうかと思いますが、ミステリとして決してアンフェアではありません。

本作は密室、首なし死体と云った本格ミステリの王道を往くものであり、間違っても色物とは言えない佇まいを持った印象を受けます。
事件後早々に登場した宮廷探偵団の副団長であるゲラルトが、らしくないのが残念です。仮にも名探偵と呼ばれる人物であるなら、もう少し個性的でそれなりの推理を披露して欲しかったところですね。まあそれは良いとして、問題はエピローグです。何とも曖昧なエンディングであり、読者によっては混乱を招きかねないものだと思います。いささか不親切な気がしました。正直もっとはっきりして貰いたかったです。

No.1 7点 人並由真
(2020/01/12 13:50登録)
(ネタバレなし)
 ミステリ好きが昂じて警官となり、のちに私立探偵となった「俺」は犯罪者に殺された。その魂は生前の地球での意識と記憶を残したまま、異世界「バンゲア」の一国家シャークの新生児に転生。農家の長男ヴァンとして成長する。論理と科学の発達が緩やかな一方、魔法が存在するバンゲア。ヴァンは前世の物理法則の概念と知識を魔法の条理に応用し、天才的な資質を発揮した。かくして平民ながら、王都の名門国立魔法学校に特待生として入学することになったヴァン。彼はそこで3年間の学業を終え、ほかの3名の学友とともに、秀才としてシャーク王家の姫君ヴィクティーから表彰を受ける栄誉を被る。だがその表彰式の式典の最中に起きたのは、不可思議な密室殺人事件だった。

 異世界を舞台に、その世界の条理やロジックまで踏まえて展開される完全なフーダニットの謎解きパズラー。版元はライトノベルレーベルからの刊行ということになるが、その分、さすがに文章は読みやすい。Twitterの一部でえらく評判がいいので読んでみた。

 転生後もミステリ好きという属性を維持する「俺」=ヴァンは、少年時代からこの世界での「名探偵」に改めて憧れるが、この世界では近代的な法務やそれに応じた捜査論理もまだまだ未発達で、犯罪が起これば官憲は被疑者に場合によっては拷問を経て自白を強要、それで事件を解決するのが定法であった。要するに現実の江戸時代~戦前までの日本などの警察権力世界が投影された世界で、ここに論理と物証の力をミステリマニアとして信じるヴァンが社会改革のため(今後の「名探偵」として)、志を同じくする友人たちに背中を押されながら斬り込んでいくのが、本シリーズのテーマになるようである(まだ一作目が書かれたばかりだけど)。
 ちなみにパズラーとしてもかなり読み応えのあるもので、真相が暴かれる前に、それまで劇中で提示された謎を改めて整理して並べながら「読者への挑戦」まで挿入。この趣向は読んでいて嬉しくなる。

 なお密室の謎は解かれてしまえばなんと言うことはないシンプルなものだが、意外性としては十分に及第点であろう。しかし本作の最大のキモは……これは言わない方がよいか。
 思いつくかぎりに被疑者ひとりひとりの犯行の可能性を検証し、そこから犯罪の実行の可否をひとつひとつ絞りこんで行くヴァンの論理の立て方も頗る丁寧(一部の説明には、そこって何とかなりそうだな~っていうものもないではないが、まあおおむねは、無粋なツッコミレベルだ)。

 前述のとおり、あくまでわれわれの現実の世界とは違う、魔法の存在する異世界の条理を利用しての謎解きなので、ギャレットのダーシー卿とかの路線、あの和製版を思えば良い。ただし先述の本シリーズの縦糸となるであろうドラマとの融合で、ミステリ部分もさらにまた別の意味を持ってくる。

 評判通りに十分面白い作品であったけど、個人的にはこういう内容とジャンルの作品なら、ラノベらしく登場人物のビジュアルがわかる挿し絵が数枚欲しかった(本書のビジュアル画は、表紙のカバーアート一枚だけ)。最低でも主人公とヒロインだけでもいいから。
 まあ内容を入稿締め切りのギリギリまで推敲して、挿し絵との祖語が生じる危険性まで考えて、あえて挿し絵を入れない仕様にしていたのかもしれないけれどね。

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