盲剣楼奇譚 吉敷竹史シリーズ |
---|
作家 | 島田荘司 |
---|---|
出版日 | 2019年08月 |
平均点 | 6.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 5点 | E-BANKER | |
(2021/11/20 10:54登録) 『吉敷竹史シリーズ20年ぶりの新作長編』と銘打たれた本作。ワクワクするねぇー。特に私のような御手洗潔<吉敷竹史と思ってる奇特なファンにとっては。 しかも単行本で500頁超という超大作! でも、これって剣豪小説ですか?? 単行本は2019年の発表。 ~江戸時代から続く金沢の芸者置屋・盲剣楼で終戦直後の昭和20年9月に血腥い大量惨殺事件が発生した。軍人くずれの無頼の徒が楼を襲撃、出入り口も窓も封鎖されて密室状態となった中で乱暴狼藉の限りを尽くす五人の男たちを、一瞬にして斬り殺した謎の美剣士。それは盲剣楼の庭先の祠に祀られた伝説の剣客「盲剣さま」だったのか?70余年の時を経て起きた誘拐事件をきっかけに、驚くべき真相が明かされる~ 本作、吉敷竹史が登場するということは、彼と妻・加納通子との長きに亘るストーリー=「加納通子サーガ」の新作ということにもなる。前作(といっても20年以上前だが)の「涙流れるままに」の最終章。まだ幼子だった娘のゆき子は何ともう大学生。しかも東大に合格して、吉敷と一緒に東京で暮らしているというから、年月の速さに驚くほかない。(もちろん現実の話でないことは百も承知です。 いやいや、でも吉敷の長く苦しく、そして孤独な戦いを見てきた読者にとっては、こんな穏やかな生活が彼に用意されているなんて、作者に感謝というか、島田荘司も年を取ったなという感慨が湧いてきます。) で、今回の舞台は古都・金沢。今までも加納通子サーガの舞台は、釧路・盛岡・天橋立というように、どこか懐かしい雰囲気の漂う、そして「橋」の似合う街が舞台だったけど(実際、私も「北の夕鶴」を読んだ後、釧路へ旅した)、今回の金沢もなかなか。さすが通子が選んだだけの街、ということでガイドブック的な要素も合わせ持っている。 ただし、ご承知おきください。 ミステリー部分は極薄です。しかも、このトリックって・・・!? 時代を超えた「子供だまし」でしょ! 今までは「剛腕」とか「奇想」とかいう言葉でかわしてきたきたかもしれないけど、これはかわしようなし。正直、噴飯ものの真相です。(いくら出来のいい○○でも、大勢の人間が気付かないなんてあり得ない!!) まぁでもいいんです。久しぶりに吉敷竹史の姿が拝めたから。 でもどうせなら、こんな中途半端な登場ではなくて、また読者が手に汗握るような熱い冒険譚であって欲しい。 もし次作があるのなら、作者には残りのエネルギーを振り絞ってでも書いてもらいたい、と切に願います。 |
No.2 | 8点 | 虫暮部 | |
(2019/11/25 13:22登録) 差別云々が出て来て嗚呼またこの作者の悪癖が、と頭を抱えたものの、豈図らんや「疾風無双剣」の章が滅法面白い。ミステリの面白さではないんだけど面白いなら何でも良い。 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2019/10/12 17:14登録) (ネタバレなし) 警視庁捜査一課の刑事・吉敷竹史は東大生の娘・ゆき子の誘いで、娘の美術の師匠と言える高齢の日本画家・高科艶子の作品を鑑賞。独特の感慨を抱く。だがその艶子の娘・頼子の子供(つまり艶子の孫)である3歳の幼女・希美(のぞみ)が金沢の地で誘拐された。くだんの誘拐事件は成り行きから、吉敷の元妻である通子が先に知ることになり、彼女は東京で非番の吉敷に応援を求める。やがて明らかになる誘拐犯人の要求。それは終戦直後の金沢の置屋「盲剣楼」で起きた、怪異な殺人事件の犯人を捜し出せ、ということであった。 新刊の帯には吉敷刑事20年ぶりの復活と謳われている。おなじみの名探偵の復活イベントはいつも大好きな評者だが、実は当方は島田作品は、初期のものとこの数年の新作群しか読んでないので、その感興が実感できない(汗・むろん吉敷ものも何冊かは読んではいるが)。 とはいえハードカバー520ページ以上の厚みのうち、リアルタイムで吉敷が活躍するのは序盤と最後のいわゆるブックエンド部分で、合計して約120ページ。さらにおよそ50ページが昭和20年代の事件の描写で、残りの350ページが、盲剣楼の名称の由来のもととなる江戸時代の美青年の剣客・山縣鮎之進を主人公にした本格剣豪小説である。 その鮎之進パートは、日頃ほとんど時代小説を読まない評者でもメチャクチャに面白かったが、フツーにミステリとして、吉敷ものの新作として読めば何だコレ、であろう。こういうものを豪快だ! といって許容するのが島荘ファンなのか? 評者も、ミステリの楽しめるストライクゾーンはそれなりに広いつもりだが、これはさすがに読んでいて、漫画の記号的なあぶら汗が垂れた(笑)。 (だって自分も、もし大沢在昌に、待望の佐久間公の復活編でこんなのを描かれたら、たぶんアタマに来ると思う。) しかしながらもともと本作は、1年余の長期にわたって地方新聞に連載された新聞小説であり、webで情報を拾うと、作者は当初から今回は、本格的な剣豪小説を書くと公言していたみたいなのね。じゃあ文句を言うのは、一応は筋違いか? 賛否両論の評価は必至(そうならない方がおかしい)。そんな作品だが、なんか始終ヘンなことやっているらしい作者が作者だけに、意外に世の中にはすんなり受け入れられそうな感触もある? この後のレビューで「とにかく面白かった」という人が来ても、「ちょっとこれはねえ……」という人が出ても、どちらも納得。 とりあえず評点はこの点をつけておきます(笑)。 |