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ミステリの祭典

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湿地
エーレンデュル捜査官

作家 アーナルデュル・インドリダソン
出版日2012年06月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 6点 ROM大臣
(2024/09/03 13:40登録)
アイスランドの首都・レイキャヴィクの一角にある集合住宅で老人が殺された。現場に残されたメッセージや、引き出しの奥から発見された写真を手掛かりに、犯罪捜査官・エーレンデュルが仲間とともに真相を追う。
一見、勤勉で優しい人々の穏やかな暮らしは、この殺人事件によって人間関係が、アイスランドの特徴を帯びて浮き彫りになる。アイスランドの歴史、文化、そして人々の悩み苦しむ表情が見事に見せてくれる。

No.3 7点 tider-tiger
(2020/03/07 00:18登録)
~孤独な老人が地下のアパートで撲殺された。典型的なアイスランドの殺人――杜撰で不器用――かと思われたが、エーレンデュル捜査官は遺体の傍らに残された不可解なメモに疑念を抱いた。そして、被害者の過去を洗っていくうちに陰惨な事件に突き当たり、その事件は方々へと暗い影を落とす。~

2000年アイスランド。原題『Myrin』は邦題そのままの湿地という意味らしい。人名が憶えにくい。作者の名前からしてアーナルデュル・インドリダソン。日本人にはすわりが悪く感じられ、頭にスッキリと入ってこない名前だと思う。なぜだか石油会社を連想した。
大きな石を持ち上げてみたら、石の下に密集していた無数の気味悪い虫が四方八方に逃げ散り拡散してしまった。そんな風な物語である。
前回書評した『顔のない男』の長所短所を裏返したような作品。
ケレン味はない。簡潔にして的確な文章で地道な捜査が綴られていく。前半はとにかく地味な展開で、後半になって多少の動きは見せるものの、ほぼ読者の想像の枠内で話は進行する。手放しに面白いとは言い切れないのに、不思議と続きが気になって読まされてしまう。HORNETさんも同じようなことを感じられたのではないだろうかと想像する。
リーダビリティの高さは章立てに依るところもありそう。各章はごく短めで尾を引くように締められており、章ごとにきちんと読みどころが詰めこまれている。元々は連載小説であったかのよう。
主人公のエーレンデュル捜査官は頑固で少々身勝手な五十男。見方によっては老害である。若い同僚たちは少々彼を持て余している感がある。欠点の多い男ではあるが、その力強さと彼なりの正義には心打たれるものがある。『湿地』のタイトルどおり、登場人物たちは総じて辛気臭く、どうしようもないくらいに繊細である。心理描写は抑えられている。なのに、なぜだか彼らの心の痛みがはっきりと伝わってくる。
同僚捜査官たちの造型は弱い。
エーレンデュルと娘の関係は非常に不可解でありながらもしっかりとイメージできて、直接的ではないものの物語の中で大きな役割を担っている。
ミステリとしては5~6点だが、満足のいく作品だった。

No.2 5点 YMY
(2019/08/17 10:22登録)
一人暮らしの老人が撲殺された。当初は強盗の犯行にも思われたが、現場に残されたあるメッセージから、捜査官エーレンデュルは老人の過去を洗いはじめる。そして明らかにされた事実は、何人もの人生を左右する重く残酷なものだった。
40年近く前の過去を掘り起こすうち、離婚や娘の麻薬中毒に痛みを抱える自分の人生をそこに重ね、苦しむエーレンデュルの姿が心を揺すぶる血のつながりや親子という主題が胸にしみた。

No.1 6点 HORNET
(2018/10/21 12:47登録)
 レイキャヴィクの湿地にあるアパートで、老人の死体が発見された。当初は、無害な老人への無慈悲な犯行と思われたが、捜査を進めるうちに被害者の暗い過去が明らかになっていく。単なる流れの犯行と目する捜査本部を尻目に、刑事は過去のつながりを探っていく。その先に現れた真相とは―

 とにかくアイスランドの耳慣れない人物名に始めはとまどい、頭に入れるのに苦労する。しかし読み進めていくうちに面白さの方が勝り、後半にかけて勢いが増していく。
 基本的に主人公の刑事の捜査過程が順に描かれ、ある意味順当に真犯人にたどり着く構成なので、どんでん返しなどは特にない。ただ物語全体に漂うほの暗い雰囲気が、読んでいて引き寄せられるものがある。

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